頂き物

□届カナイ手
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《また明日》



って言ったじゃない――




「皆さんにお知らせがあります――」



そう言って教室の中に入ってきた担任は



ハンカチで目頭を押さえていた。



「昨日の夜、交通事故に遭って――

 ――仁王君が、亡くなりました」



嘘だ。



「葬儀は家族だけで、と言うことに――」



嘘だ。



「私たちが出席できないのは残念ですが――」



どうして?



昨日は確かに一緒にいた



一緒に帰った



一緒に話をしてた



なのにどうして?




彼ニハ「昨日」シカ存在シナクナッテシマッタ




もうあいつに「明日」はない



ただ其処に残るのはかすかな残像



瞼に飛び込んできた刹那(いっしゅん)だけの表情は



常に私の方を向いて、



微笑んでいてくれた



「・・・・・・・・っ!」


「斉藤!?」



私は教室を飛び出した



後ろで引き止める声が幾つもした



聞こえたのに聞こえなかった



走って、走って



私は屋上に来ていた



奴と出会った思い出の場所



奴が好きだった此処からの眺め



《此処にいるとどこまでも見えそうな気がするんよ》



そう言って



ただ抱きしめた



どうしてだろうこの虚無感



何かが欠けている感覚



――そうか。



私は奴に依存しすぎていたんだ



だから



こんなにも笑顔をくれていたこと



今まで支えてくれていたこと



失ってから気づいたんだ。




晴れ渡った空は



悲しいほどに蒼く澄み切っていて



このまま私を何処かへ連れ去ってくれればいいのにと思った



《杏》



名前を呼ぶ、声。



《杏は可愛いのう》



頭を撫でる、手のひら。



《好きじゃ》



かつてそう



私に恥ずかしげもなく囁いた



貴方の、姿。



「あああああ・・・・・っ!」



離さないように必死だったのに



貴方はもう風のようで



私の手を取ってはくれない



虚しく膝をついた



結末は、いつだってブルーエンドなのかもしれない。




それから暫く時が経って、



私達は高校生になっていた。



私は毎日、屋上を訪れる



いつか貴方がそこで待っていてくれるような気がして



何度も、何度も



譫言のように名前を呼んだ



ねぇ、雅治?



あの日交わした「また明日」を



いつか本当にしてくれますか――?

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