ハトアリ

□愛が故。
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晴れ渡る空。


ハートの城の庭でペーターと二人きり。


「アリス、一緒に遊びませんか?」


「何をして遊ぶの?」


彼はニコッと微笑んで、ポケットから銃を取り出し、アリスに手渡した。


「ん、何よ?」


「ロシアンルーレット。知りませんか?」


微笑んだまま発した、恐ろしい言葉。


―ロシアンルーレット。


銃の中に玉を入れて、交互に撃ちあうと云う死のゲームだ。


「知ってるけど・・・本当にやるの?

私がペーターを殺してしまうかも知れないじゃない」


「云ったでしょう?僕は代わりがきくんです」


彼の心臓は時計。


壊れても、ユリウスが直してくれる。


「じゃあ、始めましょうか」


そう云うと、心の準備をする前にペーターは・・・撃った。


「―っ!いきなり何するのよ!?」


「さあ、次はアリスの番ですよ?」


優しく、微笑む。


「もう知らないからっ!」


気づいてしまった、彼が本気だと。


どうしてなのか、それは解らない。


だけど―・・・。


覚悟を決めて、アリスは、撃った。


「・・・はあ」


何とか、当たることなく済んだ。


だが、彼は本気だ。私に当たる確率は高い。


「次は僕の番ですね。・・・いきますよ」


「・・・っ!」


何もかも、壊れた気がした。


頭の中は真っ白。何か考えることも許されない。


痛みだけが、私を支配する。


そう、彼が撃った弾が当たったのだ。


滴り落ちていく、血。


ポタポタ、ポタポタ。次々と。


紅い薔薇がより紅く、緑の芝生は紅い色へと変わった。


「僕の・・・勝ち、ですね」


その刹那、彼の瞳から涙が零れた気がした。


そう感じた直後、意識は途切れた。


アリスは、死んだ。


愛していた人に―。


愛してくれた人に―・・・。


ペーターは死んだアリスを抱きかかえ、お茶会に使っていた椅子に座らせた。


―それは気持ちの良い、風の吹く日だった。




















それから、何時間帯も過ぎていった。


「さあ、アリス。今日は何をしましょう?」


喋る筈も無いアリスに話しかける、痛々しい光景。


「紅茶でも飲みます?」


アップルティーの入ったカップをアリスの口へ運ぶ。


しかし、飲むはずもなく、口から虚しく紅茶が溢れていく。


「ちゃんと飲んでください、アリス」


そう云いながら腐敗し続けているアリスの口元を布巾で拭く。


「本当に、貴方は代わりがきかないんですね」


そっと、呟く。


「だから、ずっと一緒に居れますね―アリス」


それはとても愛しそうな声で


「―冷たくなったアリスも可愛いですよ」





アリスの身体が腐敗しきっても、


たくさんの虫がわこうとも、


嗅いだことのないような異臭を放とうがペーターはアリスから離れない。


そして、そんなアリスに口付けるのだ。


それは、愛が故。


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