BL
□作り笑顔について
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小さい頃から、何故か笑うことが癖になっていた。
理由なんてもう覚えていなくて、常に作り笑いする癖だけが残った。
誰も嘘だって気付かないし、それが俺にとって良いものなら構わないと思ってる。
思ってるだけだけどさ。
亜久津との何度目かの帰り道。
何気ない会話をしながら帰路についていた。
好きな人と一緒にいられるのは幸せであり、不安でもある。
好きだからといって、付き合っているからといって、消えることなんかなかった。
「―清純」
「ん、なに?」
一瞬の沈黙の後に亜久津が口を開く。
応答してから顔を亜久津に向けると、意外にも真剣な表情でこちらを見ており、上がっていた口角を思わず下がらせてしまった。
「無理して笑ってんじゃねえよ」
心に突き刺さる言葉。
どうして気付いた?
どうして気付かれてしまった?
心から笑うという行為ができないということ。
焦りと不安、そして何とも言えない喜びが入り混じる心内状況。
涙が零れそうになって、顔を手で抑えながらしゃがみ込んだ。
一粒涙が零れると次から溢れ出し、止まること知らず流れていく。
正直、何故自分が泣いているのかわからなかった。
気付かれたくなかった、という焦りからなのか
気付いてくれた、という喜びからなのか―・・・。
亜久津が俺と同じ高さにいる気配を感じる。
「清純」
名前を呼ばれて、もう我慢できなくなってしまった。
次の瞬間に、俺は思い切り亜久津の胸に飛び込んだ。
急にのしかかる重さに耐えられず尻餅をつきながらも、亜久津は俺を支えてくれた。
そして、優しく俺を抱きしめて耳元で囁く。
「俺の前では無理しなくていいんだよ、ばーか」
その言葉が嬉しくて、余計に涙が止まらなくなってしまった。
泣いてしまっているせいで声を上手く出すことができなかったから、ただ頷いた。