東方絶対力〜今日から俺が!〜

□一話
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「はぁ…はぁ…」

冗談じゃなかった。
廊下の角を曲がったら、いきなり全く違う景色が広がり、「あなたは食べてもいい人間?」なんて女の子に聞かれたと思ったら、いきなり玉が自分を襲って来た。

「クソッタレ…!
クソッタレ!
捕まってたまるか…!」

命の危機による人間の底力はすごいものである。
かれこれ二時間はノンストップなのだ。
何より、一馬はプライドがかかっていた。

「俺の人生のため…
俺の存在のため…!
そして[脱走者]の名にかけて、絶対に逃げ切ってやるぅぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


――


知らず知らずのうちに、ひまわりだらけの花畑に来てしまったらしい。
一馬は屈んで、身を隠した。

「…今日は厄日だ。
いてて…」

さすがに全ての玉を避けられた訳ではなかった。
肩、足、背中、腹、左腕に切り傷があった。
ため息をついて上を向けば、夜になっていた。

(…夜空を見上げたのはいつぶりだったかな。)

星が光る夜空を見上げて、そう思った。
今まで、ずっと仕事しかしていなかった。
休む事は考えず、強く、汚く生きる事だけを考えていた。
せわしなく動いてばかりで、空を見上げる事は全くなかった。

(…そこまで、汚れちまった訳か…)

そこまで考えて、大きな欠伸をした。
体力を使い果たしたのだから、仕方ない。

(どっか、寝転がれる所は…)

さすがに、ひまわりを潰してまで寝ようとはしない。 一馬は辺りを見回すと、一ヵ所だけ盛り上がった地面を見つけ、移動する。
そこには、ひまわりは生えてなかった。

「…ふぁ…
疲れた、おやすみ…」

そこに寝転がるなり、一馬はすぐに眠ってしまった。


――


ここは[幻想郷]。
忘れ去られた存在が行き着く場所。
現実世界と隔離された世界であり、干渉する事は不可能である。
その幻想郷の一角には、[太陽の畑]と呼ばれるひまわり畑の中にそびえ立つ館が一つあった。
[夢幻館]。
この夢幻館は元々この世界にはなかったのだが、かなり昔に住み着いた妖怪と共に現れたのだった。

「行って来るわね、[エリー]。
寝るんじゃないわよ。」

日傘をさした女性が、門番[エリー]に釘を刺した。
エリーは手にした刃が外側の特殊な鎌を握りしめて意気込んでみせた。

「わかってますよ。
幽香様もお気をつけて。」
「フフ、別に妖怪退治に行くんじゃないんだから、大丈夫よ。」

日傘の女性――[風見 幽香]は大袈裟に笑った。
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