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□不可避な君と不可逆な僕。
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先から、視線を感じる。
視線を向ける本人は、対象人物が気づいていないとでも思っているのだろうか。
それとも、俺に気づいて欲しいけれど声をかけられずにいるだけなのだろうか。
(まあ、面白いからほってこう。)
とか思って、謙也は財前にちょっと意地悪をしてみることにした。
全く気がつかないふりして、部活後のたわいない会話を楽しむ。
俺をじっと見つめる財前へちらりと目をやる。ほら、目が合った。
どうして俺を見てるのか、なんてわかってはいるけど、訊かずにはいられない。
「光、俺をそないに見つめてどないしてん?」
「別に、何でもあらへんです。」
すぐさま視線を下に向け、部室から出て行こうとする財前に声をかける。
「そか。気い付けて帰りや。」
「お、お疲れ様です。」
ああ、あんな顔して何にもないだなんて。そんなことは嘘だって、顔に書いてあるのだから、君の心は僕にはお見通し。
俺は、すぐにカバンをとって立ち上がる。
扉を開けて、財前の背中を追いかける。
光、そう呼べば財前は立ち止まって振り返る。
横に並んで歩き出す。
ほら、そんな顔しないで。
もっと、君に意地悪したくなるから。
やさしくするだけなんて勿体なさすぎる。
「一緒に帰ろうや。」
「ええですけど。」
必死に無感動を装おったって無駄。
財前にそう言ってあげてもいい。
けれど、そんな彼が面白くて、そして、可愛いくて大好きだから言わないことにしておこう。