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□fresh breeze
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体育祭にはもってこいの快晴。
昼休憩後、最初のプログラムは部活対抗リレー。選手は、選抜部員+顧問で計10名。

もちろんかなりの盛り上がりをみせる大目玉競技のうちの一つだ。
昨年、男子テニス部は惜しくも2位だった。今年は、その雪辱をそそごうとテニス部は躍起になっていた。

昨年同様に男子テニス部の選抜選手である謙也は、はちまきを締め赤いアンカーのたすきをかけていた。
興奮で胸が高まる一方、緊張もしながら編成所へ向かった。
実は、謙也はこの競技を一番楽しみにしていた。

すでに、テニス部のレギュラーメンバーが何人か揃っているようだ。


男子テニス部のスタートを切る白石がにこやかな声をかけてきた。

「謙也、珍しく緊張してへんか。」
「してへんし。」
「ま、安心しいや。この俺が無駄なくスタート切って差つけたる。」
「頼んだで。けど、俺に見せ場作ってくれてもかまんで。」
「残念やな、謙也。俺が、そないな無駄なことするわけあらへんやん。」
「無駄ってなんやねん。そないなこと言って、この俺に感謝することになってもしらんからな。」

そんな風にいつもみたく話をしていると、緊張が解けそうな気もしたが、謙也はやっぱり緊張していた。
リレー選手は集合するようにとアナウンスが流れる。

ほとんどの部の選手は揃ったようだが、男子テニス部は千歳ひとりだけが来ていない。しばらくして、生徒役員に連れられて千歳がやってきた。

「何してんねや千歳。もう始まってまうで。」
「すまんかね。白石。場所がわからんかったんよ。」
「はよ、はちまき締めや。」
「うん。出来んけんやってほしか。」
ため息をこぼした白石は、千歳と向き合った状態ではちまきを巻いて行く。

わ〜千歳。それおもろいな!なんかリボンつけてるみたいやんか、とか金太郎に笑われても千歳は全く気にせず、よかやろと自慢げにへらりと笑いかけて、白石に礼を述べた。

「白石〜、わいのはちまきも結んでや!」
「はいはい、金ちゃん。結んだるからおいで。」
「かっこよくしてや!」
「うん、任しとき。」

そんなやりとりを見ていると、謙也はリラックスできた気がした。

謙也さんと呼ばれて振り返れば、財前がはちまきを差し出している。

「謙也さん、結んで下さい。」
「おお。ええよ。」

千歳先輩みたいにせんといて下さいねなんて言われちょっと残念に思いながら、謙也は悪戦苦闘しつつはちまきを結った。

「髪が崩れてしもうたやないですか。」
「すまん。」
白石がしたようには上手く結べなかった謙也は素直に謝った。

ええですけど、と言う財前は無表情で淡々としたいつもと変わらない様子だ。

「スピードスターがおるのに、まさか、負けるわけあらへんですよね。」

プレッシャーをかけているのかと問うと、財前は違うと答える。

「絶対勝ちましょうね。」

そういきなり耳元で言うと、財前は謙也の頬に唇を当ててきた。

緊張しすぎやし、謙也さんとからかったように笑いながら財前に言われ、謙也はろくに何も言えず、そばを離れる財前を見つめることしかできない。

そんな様子を見ていた千歳が緊張感などまったくない様子で財前に話し掛けている。
「よかね〜謙也は。光くん、俺にはしてくれんとね?」
「なんであんたなんかにせなあきませんの。」
「ひどか言い方たい。俺だって緊張しとるけんね。」
「ようそないなこと言えますわ。部長にでもしてもろうたらどないです?」
そう返しても、光くんからがよかとか、冗談か本気かわからない表情で千歳は返している。



リレーが始まった。


流石は白石。黄色歓声の中、他とかなりの差をつけてトップでバトンをつないだ。
次は、オサム先生。白石のつけた差のおかげでなんとか一位を死守して、金太郎にバトンが渡る。またまた差を開きながら財前、銀、小石川、千歳と一位を守りながらバトンが渡って行く。小春とユウジは、走ると言うより漫才をしながらのオンステージショウ状態。順位をどんどん落としても、笑いだけは上がり続けている。

歓声があがる中、明らかに意地悪く口角をあげていユウジから、謙也はバトンを受け取った。

(なんや、見せ場作ってくれとるやないかい。)

加速を続け、ひとりまたひとりと抜いていく。

(あとひとりや!)

興奮した実況アナウンスが流れている。
「トップ、最終コーナーを曲がりました!おっと、テニス部忍足選手、速い!速いです!トップこのまま逃げ切れるか!?」

謙也はトップを走る選手の背中を捉えた。トップと肩が並んだ。

ゴールテープの向こうに走り終えたみんなが自分の名前を必死に叫んでいる。
財前までもがだ。

(いける!)

謙也は、ゴールテープを切った。




仲間たちが走り切った謙也に駆け寄ってくる。謙也は、両手を広げて彼らを待ち受けた。

謙也は、仲間たちにもみくちゃにされながら、ふざけつつも財前の頬に口付けた。

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