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『港北高校、練習時間、残り、3分間です』
チケットを購入して2人が球場へ入ると、タイミングよく放送が響いた。
スタンド席の中腹からグラウンドを見下ろす。門脇の学校側のシートノック練習のようだ。
「お。ちょうどじゃったな。どこらに座る?」
「そのへんでいいよ」
思いの外賑わうスタンドに、巧がぐるりと首を巡らす。ひょい、と空いている客席を跨いで、2つほど階段席を下がった場所に座った。
「そんなに近くなくてもいいだろ」
土曜日とはいえ、学校関係者やブラスバンドの生徒が応援に来ている程度かと思っていた。
「なんか応援すごくない」
「そうじゃな」
どうやら父母会や応援団以外に、選手のクラスメイトが幾人も来ているようだ。
「まだ県大会の3回戦だよな」
豪の手にある、持参の新聞のヤグラを覗き込み、巧が疑問を投げる。甲子園を賭けた決勝でも準決勝でもない。
豪も一瞬首を傾げかけ、あ、と口を開いた。
しかしそれより早く、背後から答えがかえる。
「港北が3回戦なんてな、30数年ぶりなんだよ。誰かさんの快進撃のお陰で」
「瑞垣さん」
「これ勝ったら次、準々決やろ。岡山ベスト16や」
そりゃ、力も入るだろうとうそぶき、淡い緑のシャツが豪の横2つずれた席に座る。
「あっち。なんやお前らよく平気で座っとるな。おい永倉、その新聞よこせ。尻が燃える」
「え、あ、はあ」
「ちゃっちゃとしろ」
太陽に熱されたオレンジ色の客席ベンチは、やけどしそうに熱い。ジーンズの豪と巧は耐えられたが、薄いハーフパンツの瑞垣には熱すぎたようだ。
豪から新聞をもぎ取り尻に敷くと、瑞垣はグラウンドを見て口を開いた。
「始まるな」