真夜中に目が覚める。


■鵺を嘲る


 遠くに鳥の鳴く声がして、ベッドに沈んでいた意識が浮上した。ゆっくりと目を開けて、窓を見る。
 窓にひかれたカーテンは、遮光ではない為、月明かりがうっすら部屋に射していた。

 瑞垣は、そっと起き上がった。

 ほの蒼い光に誘われて、カーテンを開けようかと一瞬逡巡する。
 と、夜中にも拘わらず、また窓の外に鳥の声がした。不安を誘う悲しげな声だ。

( 鵺、か )

 平安の世ではその声で、帝を病へ陥れた凶鳥。永い間人々に畏れられてきた鳥だ。
 元々は、もののけの総称だったか。

 もののけなら陰陽師の助けを呼ばないとな。
 声に出さない自分の面白くもない冗談を、瑞垣は嗤った。
 違う。
 鳥の声に目覚めたのではない。
 全てを照らすこんな月の夜に鵺などいるものか。

 おそらく、今――


(何回目やろな)

 殆ど確信に近い思いで、瑞垣は想う。
 聞こえないはずの、風を切る素振りの音が耳元でした気がする。
 鵺などという、得体の知れないものに怯えるなど愚の骨頂だ。

(あいつなら、知らんうちにバットでぶっ叩いてそうやな)

 ちょっと笑って、瑞垣がカーテンを開ける。

「さて。アホは放っといて、寝よ寝よ」


 月が煌々と眩しかった。


20090731 毎度分かりにくい話ですみません。解釈はお任せします。

念の為に。鵺(ぬえ)と読みます。





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