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□切なき想いの果て
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まだ熟さない青い果実を握り潰し、そこから滴り落ちる甘酸っぱい果汁を少し赤みの薄い舌先が掬う。
まだ形のある堅い皮の亀裂をなぞり舌で割ってはいる。
そんな色気の充満した部屋に2人。
彼は熱い視線をあえて無視し、横目で対象を確認しては果実に舌を伸ばした。
時が経過しても変わらない、むしろ経過したのかさえわからないような空間の中、独り言のように呟いた。
「欲しいのかい?」
声を掛けられた対象は視線を向けたまま数秒黙っていた。
彼が目をそらしたと同時に、口を開いた。
「そんなことがあると思うか」
気味悪く笑い言った。
「ボクには欲しがっているように見えるけどねぇ」
会話の続かない緊迫した空気の中、2つのオーラは依然として消えない。
対立することも調和することもない、ある意味相性の良いように思われた。
「少しは気を抜いたらどうだい?」
少しずつ歩み寄り触れようとした。
しかしその瞬間凍り付くようなオーラが放たれた。
この時、万人なら静止して最期を思うしかないだろうが、彼は何一つ戸惑うことをせず簡単に触れた。
お互い言葉を発することなくこうなることが当たり前かのように熱く、深い濃厚なキスをした。