DI日記

□常盤朔の深見さん記録張 No.00
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え?私の話ですか…。…ええ、まあ一応オーナーに勧誘…のような拉致のような形でここに連れられました。
そうなんですよ、初めて会ったときからあのテンションで問答無用な感じでした。

えっと…、じゃあちょっと長くてあまり面白くはない話かと思いますが……。




常盤朔の深見さん記録張 No.00






「ぐはぁっ…な、何なんだよてめぇら…」

「はっ!さっきまでの威勢はどこに行きやがったんだ?あぁん?俺達をボコボコにしてくれるんじゃなかったけ?」

「ホントだよね、身の程知らずもいいところだよ。あぁーあ、こんな弱いんじゃ僕だけでも十分だったんじゃない?燈悟が来るまでもなかったよ」

「いいじゃねぇか、俺も暴れたいんだからよ。それとも尋隆は俺と一緒じゃやりくいって言うのかよ?」

「ち、違うよ!オレは…燈悟と一緒に遊べて本当に楽しいよ。だから、これからも一緒に遊ぼうね」


えっと、今の私からはあまり想像できないかもしれませんが…その、結構若いころはやんちゃと言うか、まあまあ悪い事に首突っ込んでたんです。
高校の時に出来た友人の飯倉ってやつと一緒に色んなところに喧嘩売ってて
…その内、規模で言うと中堅くらいのいわゆる暴力団のような人達の事務所に出入りするようになってました。
この飯倉って奴はまあ、私くらいしかつるんでいる奴がいなかったんで必然的にいつも一緒にいるような形をとってました。
私の方としたらずっと仲の良い友達で喧嘩のときに背中を任せられる位には頼っていて、アイツの事は結構理解しているつもりだったんです。

でも、私は全然飯倉のことを理解なんてしていなかった…アイツの私に対する気持ちは私が考えているのとは全然違っていて…。
だから、あんなことが起こってしまったんだと思うんです…。




その日もいつものように、特に用事はなかったんですが事務所に顔を出しに行ったんです。
そこに行けばなんとなく知り合いもいるし、面白そうな事もあるだろう、と思って向かっていました。
事務所の入っている建物の前に着いた時にちょっといつもと違う感覚がしたんです。
なんというか、静かすぎるというか、大抵騒いでるのがいるはずの場所だったんでそれなりに声がするはずなんですよ。
でも、その日はまったく中から音が聞こえなくて…少し警戒しながら建物のドアを開けたんです。

とりあえずずっと警戒をしたままで、事務所のある二階まで上がろうと階段の所まで行ったときに
喧嘩のときに嗅ぎ慣れた、あの生臭い…血の匂いを感じました。
一瞬で最悪の―敵対している所の奴らが来て皆が…―事が頭に過ぎりました。
急いで階段を駆け上がって、事務所のドアに手をかけて勢いよく開きました。


「おっさん!尋隆!ぶ、じか………よ……!」


私の目の前に広がっていたのはさっき想像した光景とある意味似ていて、でももっと最悪の光景でした。
この事務所の全員―お世話になっていた兄貴分の人やよく一緒に麻雀をしていた奴ら―が…何か刃物で切られたような形で
床に倒れていて、そいつらの血で床は真っ赤に染まっていました。
そして、床に倒れている奴らの中心に、全身を真っ赤に染めて片手に愛用のサバイバルナイフを持って立っている飯倉の姿がありました。


「あ、燈悟〜、今日は遅かったんだね」


私に気づいた飯倉はいつも通りの笑顔で、でもこの状況にはまったく合わないほどに、いつもどおりの顔でこちらを振り返ったんです。


「あ…な、なんなんだよ!……これはいったいどういうことだよ!おいっ、尋隆答えろよ!
何がどうなってこんな、みんな…それにお前その血…これじゃあまるでお前が…」

「ん〜?まるでって…もちろんこれぜーんぶオレが殺ったに決まってるじゃん?」


目の前の状況をまだ理解し切れずに混乱と共に言った私の言葉に、飯倉はさも当然のように返してきました。
なにも悪いことはしていないといわんばかりの顔をして。


「お前、がやっ、た…?は…ど、どうしてこんな酷い事を!皆世話になってたり遊んだりしてた仲間じゃねぇか!」


一気に怒りが頭を駆け巡って、飯倉の胸倉をつかんでそのまま問い詰めました。
こんな事をする理由が私にはまったく理解できなかったから…なぜ?という思いでいっぱいでした。
でも、飯倉の言葉を聞いてその怒りは逆に恐怖に変わったんです。


「どうしてって……だってこいつらさぁ、燈悟に近づきすぎだったんだもん。燈悟の一番近くにいていいのはオレで、オレには燈悟がいて、それだけで
 ずっとやってきたじゃん。いつだって二人で他校の奴らに喧嘩ふっかけに行って、そんでいつも二人で楽しく遊んでたじゃん。それなのに、それなの
 にさ、いつの間にかこいつらが燈悟の周りにいてそんで、どんどんオレと燈悟だけだった遊びに加わってくるし、燈悟もなんだかオレだけを見てくれ
 ないし、俺以外の奴を頼ろうとしたりするなんて訳のわからない事しだすし。だからさ、オレ消しちゃえばいいと思ったんだよ!みんなみんな全部
 キレイに消しちゃえば!そしたらさ、またオレと燈悟の二人だけで遊べるだろ?また、燈悟の世界にはオレだけで、オレには燈悟だけの楽しい世界が
 出来るだろ?ほら、そうすれば 燈悟も楽しいよね?オレ達二人だけいればそれで何だってできるよね?」


飯倉は私に胸倉をつかまれたまま、目をどんどんと輝かせ、あたかも呪いのように言葉を紡いでいきました。
私はどんどんと飯倉を掴んでいるのが怖くなって、手を離し足は勝手に後ろに下がっていきました。

「そ…そんな事俺は…望んじゃいねぇ…!」

飯倉が私に対してそこまで歪んだ執着をしているなんて全然知らなかったんです。
知っていたらどうだったというわけではなんでしょうが…ただ自分が何も見ていなかったということを痛感させられました。

「じゃあ、燈悟?何からはじめようか?とりあえずこいつら片付けないと燈悟が汚れちゃうね」

「い、いやだ…俺は関係ない…関係ないんだ…!」


とにかく怖くて怖くて、早くこの場所から逃げ出したいという気持ちで足を必死に動かして外へと駆けました。


「あれ?燈悟どこ行くの?…あぁ、鬼ごっこか。いいよ付き合ってあげる、オレが鬼だね。待っててね燈悟…」

後ろで飯倉が何か言っているのを聞かないようにしながら無我夢中で走りました。
でも、アイツの最後の言葉だけはなぜか呪いのようにしっかりと私の耳に入り、消えずに頭の中で響いていました。


絶対に……見つけてあげるから、絶対に絶対に…うふふっ、あははっあはっあはははは!



それから、飯倉が追ってくる恐怖に縛られ頻繁に居場所を変えながら少しでも遠くに少しでもアイツに見つからないように、と
そればかりが頭にありました。
あの日から何日たったか分からない頃には私の精神はぼろぼろになっていて、寝ようとしても飯倉の言葉が頭の中で響いて
消えないのでほとんど眠れず体ももう限界でした。


そこがどこかも分からない雑居ビルとビルの間に座り込み、立ち上がる力さえも残っていないのでこのままここで自分の人生は終わるのだと思いました。



「おや、誰かいるなって思ったら面白そうなもの発見しちゃったかな〜?」


目を閉じて自分の終わりを待っていると、突然その人は現れてボロボロの私を見てとても楽しそうにしていたんです。

「だ、れだ…おま、え…」

「んん〜、今は結構薄汚れているからアレだけど…素材は結構いい感じだし。うん、なによりその目が良いねぇ!私好みのいい目をしてるよ」


はっきり言って、頭がおかしい奴なんだと思って無視しようとしました。


「よし!決まり!君は今日から私のところの従業員に決定しまーす!丁度探してたところだから、運がいいねぇ君」

「なに、勝手な、こと言って、やがる…俺なんか、いても、お前が面倒にな、るだけだ…」

「それってぇ、君が何かから追われているからって事?」

「なっ!ど、うして…そのこと…」


一人で勝手に話が進んでいく上に、私が追われているって事まで当てたのでかなり驚きましたよ。
その時に初めてその人の姿をはっきりと目にしたんですが…見た目は普通にそこら辺にいる若い女性でしたよ。でも、オーラが人と違う…そう感じました。

「まぁ、そりゃ見れば分かるしねぇ!でも、まあ安心してよ、君がどんな厄介な奴に追われているのかは知らないけど”絶対に見つからないから”

「そ、んな所あるわけ…」

「あるんだなぁ、これが。
 資格なき者には見ること叶わず、許可なき者には入る事叶わず。資格あれども許可なくはそれは見えぬ、許可あれども資格なければそれは視えぬ。
 資格と許可、その二つを持っているものにのみトビラは開かれる

 とまぁ小難しく言ってはいるけど用は幽霊みたいなもんだと思ってくれれば良いよ」

「はっ!…そんな不思議空間…本当にあるなら、ぜひとも連れて行ってくれよ…」


もう訳が分からない話ばかりされて…どうせこのまま死ぬならこの頭のおかしい奴に騙されてやるのも良いだろうと、そんな言葉を口にしていました。


「うん、じゃあ一応…ようこそ世界の沼底に、この表世界とはまったく異なる新たな法則の元でのみ成り立つ現象の溢れる空間
 私の愛しのディープアイランドに!」


彼女がそう言った瞬間、一気に世界が明るくなり次の瞬間にはもうそこはさっきまでいた汚い場所ではありませんでした。




ええ、その後はもうご想像通りだと思いますが…その人があのオーナーでして…驚いてあまり記憶がない内に
あっというまにここの従業員をさせられていたわけなんですよ。
さすがに、制服だといってこのつなぎを渡されたのにはちょっとびっくりしましたよ。
口調から何から全部オーナー指導の下に変えさせられましたので…今ではあんな風に喋っていたのが懐かしいですよ。



あ、もう時間ですか…こんなつまらないお話を長々と聞かせてしまってすいませんでした。
それでは、この後もぜひこの場所を楽しんでいってくださいね、失礼します。



→あとがき
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