DI日記

□樹は枝を伸ばし、月は翳る
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樹は枝を伸ばし、月は翳(かげ)る



ずっと笑っていたけど、全然楽しくなんか無かった…。
それは、きっと自分が彼らと比べるとずれてしまっている感覚を持っていたからだと思う。
たとえ同じ作品を好きになったとしても、彼らが興味の抱く対象、好意を寄せる対象と、私がそういった感情を抱く対象はいつだって違う…
いつだって私は少数派だった。
“マイナー好き”なんて人には言われ、実際自分でもそう思っていたし、無理に変えられるようなものじゃないから…。
いつも、笑って「そうだよ」って答えるしかなかった。


「ねぇねぇ、昨日のアレ見たぁー?超かっこよかったよねぇ!」

「うんうん、やっぱり―――くん最高だよね!」

今日も今日とて、クラスではやかましいくらいに騒ぐ女子の声が私の頭に響いてうっとうしい。
また、どこぞのアイドルにでもはまっているのだろう。あと何ヶ月もすればまた違った奴に目移りをしていくのだと容易に予想がついた。

「あ、常盤さん。この本超面白かったよ〜」

頭の中で彼女たちをどうやれば永久に黙らせられるのか、と無駄な想像にふけっていると、ある程度親しくしているクラスメイトから声をかけられた。
ん〜?名前は………なんだったかなぁ?
まあいいか、どうせそこまでの関係じゃない。ここを卒業してしまえば話す事もなくなるだろうから。

「やっぱ常盤さんが貸してくれる本ってどれも面白いね。私、この主人公の男の子結構好きかも」

あぁ、そういえば先週お薦めの本を貸していたんだった。どうやらなかなか好感触だったようで貸した側からすればまあまあ嬉しい事だ。

「この健気に頑張ってる感じとか、必死なとこがいいよねぇ」


―――でも、やっぱり違う―――


「うん、そうだね。多分そこらへん気に入るんじゃないか、って思ってたから予想通りでよかったよ」

「やっぱり?私って好きになるキャラ判りやすいって言われるんだよね。常盤さんはどのキャラが気に入ってるの?」

ほら、来た。来るだろうと思っていたけど、言ったらまたいつもみたいな反応されるんだろうな…。

「私?そうだねぇ、あえて言うならこの人かな。あんま出番は無いけど逆にそれが良いと思うよ」
「あぁ〜、常盤さんらしいね。こんな“マイナー”なキャラ選ぶのさすがだよねぇ」

なにが「らしい」だ…私のことをそこまで知っているわけでもないのに。
さすがって、褒めてるのかそれは?


そう、いつだって私はマイナー派―多数が力を持つこの世界において隅に追いやられてしまう存在…いわゆる少数派―だ。


いつの頃からだろう、自分の選ぶ選択肢が人と違った方向にむくのだと気づいたのは。
みんなが好きなキャラクター、可愛かったり格好良かったりするものにはたいした興味も抱かない。
もちろん、それの好かれる理由も要素も理解していた。
ああ、これはみんな好きなんだろうなぁと漠然とした思いは感じていた。

でも……、大好きじゃない、胸がわくわくしない、心が引き寄せられる“あの”感覚を感じる事はなかった。
そのかわり、みんながあまり好きだと言わない脇役だったり、好かれない敵役だったりする存在に強く、そう、強く心を惹かれた。
彼らの事を「好きだ」と素直に感じられたのだ。

それを自覚するとより世界と自分とのズレをより感じるようになった。
でも、それでもいいと思っていたのだ…自分の中で彼の、彼女の、彼らのすばらしさが理解できていれば。
それなのに…なぜか理解されない事への寂しさは消えなかった。
理解してもらいたいと、共にこの気持ちを分かち合いたい、少なくとも認めてもらいたいとどこかで考えてしまっていた。

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