■企画・記念小説部屋■

□「I'm Here」
1ページ/2ページ



 きらり、と刀身が月光を反射し刃こぼれ曇りひとつないことを示す。
 静かに鞘に納め壁に立て掛け、床に腰を降ろすと窓から町並みを眺めた。
 長い眠りから目覚めてから相変わらず旅を続ける日々。一箇所には長く留まらず色んな街へ行っても、多少の差はあるもののまだ内戦の爪痕が残りどの街も似たような景色をしている。
 何の感慨もなく眺めているとどこからともなく何かを引きずるような音が聞こえてくる。
 それが何かなど振り返らずともわかる。床に座り外を眺めたままでいるとゆっくりと近付いてきたそれはすぐ横で止まり、シキの体に絡み付いてきた。
 のしかかる毛布の塊から伸び、首に回る白い腕。その隙間から覗く灰髪。押し付けるように肩口に埋めてくる横顔。小刻みに震える肩。
 シキが小さく息を吐いて背中を撫でてやれば強張った体から徐々に力が抜けていった。

 アキラは時々夢にうなされる。そういう時は決まってシキの存在を確かめるように縋り付いてくる。
 姿が見えない時はシキを探して部屋を彷徨い歩いた。
 一体どんな夢を見ているのか――問わずともシキの肩口を濡らす涙の感触からなんとなく想像がつく。
 普段憎まれ口を叩いてばかりのアキラが声もなくただ、涙を流すほどの悪夢とは―――


 不意に、アキラの顔が肩に押し付けられたままシキの方を向く。
 ひたすら見つめてくる、涙に濡れた碧の瞳。目を覚まして泣き続け、肌の白さのせいで赤くなった目元が痛々しい。
 抱きしめて髪を撫で、その耳元へ囁いてやる。








 ここにいる、と









 シキは夜更けの町並みを眺め続けていた。
 窓の外にやっていた視線を下に向ける。
 腕の中ではアキラが安心したように眠っている。
 頬に残る涙の跡を優しく拭うと、投げ出されていた毛布を手繰り寄せアキラを抱き込んだまま包まった。

 随分甘くなったと、自分でも思う。特にアキラの涙に弱くなった。
 夢で泣くほどになってしまったのはシキが起因しているからだ。
 自分が眠っている間、姿を消していた間この男は何度泣いただろうか。
 …否、まったく泣かなかったかもしれない。
 だが泣いている間くらいはせめて無条件で優しくしてやろうと――

 抱き込んだ体ごと毛布に包まったせいで先程より間近にあるアキラの顔。
 安らかな寝息を立てる唇に触れるだけのキスを落とし、重なった鼓動を感じながらシキも目を閉じ眠りについた。






【I'm Here】





Present for 人魚の憂鬱様
後書き→
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ