■企画・記念小説部屋■
□拍手ログ2009年5月〜8月
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【君の青に赤い果実】(ボカロ編)
「マスター、ゴムありませんか?ヘアゴム」
「あ?」
キッチンから顔を覗かせたカイトが自分の前髪を摘むようにして言った。
「ヘアゴム?うちにはたぶんそんなものはない」
「そうですかー…料理するのに髪が邪魔で…」
「輪ゴムならある」
「あ、それでいいので貸してもらえますか?」
テーブルの上にあった輪ゴムを渡すとカイトは前髪を結び、再びキッチンへと戻っていった。
「――いっ!いたたたっ!」
家事を終えたカイトが結んでいた髪をほどこうと輪ゴムを引っ張った瞬間、輪ゴムが髪を巻き込んで絡まったのか、悲痛な声が聞こえた。
「輪ゴムで髪結ぶといてーよな」
「早く言ってください、マスター…」
うぅ、と涙目になりながら頭部をさすっていたカイトが何か閃いたようにぽん、と手を打った。
「そうだ、マスター、明日何かヘアゴム買ってきてくれませんか?」
「は?」
「何でもいいです、安いので。ちゃんと痛くなく結べるやつを♪」
「あー…まぁ、わかった」
最近家のことはカイトにまかせているため、家事をこなすのに必要とあらば願いを聞かないわけにはいかない。
了承するとカイトに「ありがとうございます!」と抱きつかれそうになったのでとりあえず身をかわしておいた。
翌日俺は仕事帰りにカイトに頼まれたヘアゴムを買うため雑貨屋に寄った。
可愛らしいアクセサリーが並ぶ店内に男の客は俺一人でなんとも居心地が悪い。
なるべく気にしないようにして店内に足を踏み入れた。
「あれー、先輩じゃないですかー」
不意に呼ばれ振り返ると、レジカウンターの女性店員が手を振っている。
「あ?あー、お前たしか」
「お久しぶりですー」
女性店員は高校時代の後輩であた。
卒業後から久しく会っていなかったが昔と変わらず人なつっこく笑いかけてきた。
「先輩なにかお探しですか?」
「あ、ああ。ヘアゴムを…」
「ヘアゴム買いにこういう店来るってことは、さては彼女ですね?」
「ぶっ…は!」
『彼女』の言葉に思わず吹き出すと後輩は一瞬驚いたように目をぱちくりさせ、次第ににんまりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「やだ、図星ですか?」
「違う!自分用に!」
「えー、先輩ってそういう趣味でしたっけー」
「い、いや、その…」
「うふふー、まぁそういうコトにしといてあげますよ♪」
しどろもどろになりながら必死に誤魔化そうとしていると、後輩はにまにましながらアクセサリーの棚から何やら取り出した。
「コレ、可愛いと思いません?今日入荷したばっかなんですよー」
掌に乗せられたもの、それは確かにヘアゴムではあるが…思わず固まってしまった。
「お前ね…聞いてる?自分用だって…」
「大丈夫!先輩なら似合いますって!まぁ気に入らなかったら誰かにあげちゃってもいいんですよ♪」
「……てめぇ」
もう何を言っても無駄らしい。
諦めてそれを投げやりにレジに差し出した。
カイトなら似合うかもしれない、と小さな袋に入れられた苺の飾りのついたヘアゴムを握りしめ、ポケットにつっこんだ。
2017.5加筆修正
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