■企画・記念小説部屋■
□拍手ログ2009年10月〜2010年3月
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【月下の夢】
*シキアキED1
アキラは走っていた。
刺客に追われ、抜け殻となったシキを連れて必死に走る。
今日の刺客はかなりしつこい。
街中にいた時からずっと追われ、細い路地から路地へ縫うように逃げて撒こうと試みるもいつの間にか山道へと追い込まれている。
車椅子は悪路を進むうちタイヤが石を噛んで動かなくなったため途中で捨てた。
今はシキを背負って奥へ奥へと逃げている。後方からは未だ追っ手の気配が迫る。
「くそっ…!」
舗装されていない悪路に加え、人一人背負ったまま山道を走るアキラの体力は限界だった。
ずり落ちてくるシキの体を背負い直そうとした時、草に足をとられてぐらりと体が傾いだ。
―――――まずい!!
思った時には遅く、次の瞬間斜面を滑り落ちていく。
「うあっ…!」
シキっ……!!
あちこち打ちつけながら転がり、シキの体を掴もうと手を伸ばす。
しかし、次に襲ってきた頭部への衝撃により意識は闇へと呑まれていった。
月が見える。
欠けたところのない、完全なる満月。
背中越しの土の感触と草の匂い。
一陣の風が吹き抜けていった刹那、視界いっぱいに広がる草たちがさわさわと揺れる。
投げ出されていた体を起こすと辺りの光景に息を呑んだ。
見渡す限り一面に広がるすすき、すすき、すすき…
ふくらんだ穂が風にしなり、月光に照らされてあたかも金色の草原の様相を呈している。
そして金色の中に佇む―――背中。
まさか
「――…っ」
唇はぱくぱくと戦慄くのに言葉が出ない。
背中がゆっくりとこちらを振り向く。
これはきっと夢だ。
いや、もしかしたら自分は死んだのかもしれない。
ここはきっと死んだ後の世界で――そうだ、きっとここは天国の草原。
でなければ痛みも感じず、こんな自分に都合のいいことなどあるはずが無い。
硝子玉の赤に月が映りこみ、まるで以前のように瞳に光が戻ってきた錯覚に陥る。
「………ぁ…」
縋るように伸ばした手が届く寸前、シキの体が金色の中に吸い込まれるように沈んでゆく。
「シキ!!」
伸ばした腕でしっかりと抱きとめたシキの瞳は再び閉じられていた。
細くなったシキの体をきつく抱きしめ仰いだ天。
雲の中に姿を隠した月はもうそこには無かった。
2017.5加筆修正
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