■企画・記念小説部屋■
□拍手ログ2010年3月〜8月
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【髪に挿したら】
*サガカミュ
あたたかな陽射し
やわらかにそよぐ風
やさしい草の匂い
ある春の、穏やかなシエスタの時間。
双児宮の庭、オリーブの木陰でまどろんでいると何かが髪に触れる感触とくすくすと耳を擽るちいさな笑い声。
ゆっくりと目を開けると木漏れ日を背にいたずらっぽく笑う赤い妖精がいた。
「――…ああ、カミュ…」
寝起きの少し掠れた声で名前を呼ぶと妖精は嬉しそうに笑みを深くした。
そうして手に持っていた白い花を一つ、サガの髪に挿した。
手で触ってみると、いつからそうされていたのか髪のあちこちに花が挿されていた。挙句に、まだ膝の上で眠っているシャカの金髪にまでいくつもちりばめられている。
「あ、さわってはだめ」
花を取ろうとした手をカミュによって止められる。
「そのままでいてください、サガ」
あまりにも楽しそうににこにこと笑うので髪にやっていた手を下ろした。
それを見たカミュは気が済んだのかサガの隣にちょこんと座るとまだいくつか持っていた白い花をくるくると、手の中で弄ぶように眺めた。
細い花弁が丸くなって集まった白い花。
小さくも可憐なその花をこの子の髪に挿したらさぞ映えるだろう。
「…貸してごらん」
差し出されたサガの手に、くりくりとした赤い瞳をきょとんとさせた表情が可愛らしくて笑みが零れる。
その優しい笑みにつられたように笑うカミュが持っていた白詰草を掌に落とした。
「お返しだ」
細い茎を人差し指と親指で摘んで、カミュの髪に挿した。
思ったとおり紅蓮の髪に小さな白い花は見事に映えた。
確かめるように恐る恐る髪に触れようとする手をサガの手が止めた。
「触ったら駄目だ。…とても似合っているよ」
先ほどカミュに言われた言葉を返してやると丸い輪郭の白い頬にぽうっと紅が差し、恥ずかしげに俯いた。
花を挿されたことよりも、サガに褒められたことに照れたようだった。
「似合っているよ」
もう一度言うと今度は顔を上げてはにかむように微笑んだ。そしてサガの体にこてん、と寄りかかって目を閉じた。
寄せられた赤い髪を撫でてやるといつしか寝息が聞こえ始めた。
髪を撫でていた手を止めて、その小さな肩を抱いてもっと身を添わせるように自らへと寄せた。
さわさわと温もりを帯びた風に撫でられ再び眠りへと誘われる。
抗うことなく傍らの愛しい体温に寄り添い、サガは目を閉じた。
2017.5加筆修正
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