星矢短編小説

□ぬりたてちゅうい
2ページ/3ページ


「カミュ…」
「じっとしてください。はみ出してしまいます」



 あれから少し経った休日。
 現在サガの手は腹の上に跨がったカミュによってしっかりと拘束されている。
「カミュ、私には必要ないよ」
「私が貴方にして差し上げたいのです。…それとも色が気に入りませんでしたか?貴方の髪の色と合わせたのですが」
「色の問題ではないよ…」
 カミュは慣れた手つきでサガの左手を手早く塗り終えると今度は右手を掴んで自分の眼前へ引き寄せ、その爪に光沢のある青を乗せていく。
 サガは観念したように苦笑すると塗り終わった左手で読み掛けの書類を持ち、終わるまでの間をやり過ごそうと思っていた。
 しかし、それを見咎めたカミュが奪っていった。

「塗ったばかりです、書類に色がつくので触らない方が」
「目を通すだけなのだから大丈…」
 カミュの手から書類を奪い返す。…が、その拍子に紙面に青が一筋走った。
「…む」
「だから言ったでしょう。手を貸してください、塗り直します」
「いや、なんなら全部落としてくれないか…これでは何もできない…」


 サガは見てしまった。
 この懇願に紅の双眸が満足そうに歪められ、所々はみ出しながらも塗り揃えられた紅い爪がサガの胸元を辿るのを。


「貴方は何もしなくていい…両手が終わったら次は両足。すべての爪が完全に乾くまで絶対に動かないでください」
「カミュ…私が悪かったよ…」
「何がです?私は別に謝られるようなことをされた覚えはありません」
「………もう好きにしてくれ」
「ありがとうございます」



 ああ、その美しい笑顔のなんと意地の悪いことか。
 しかしこのささやかなカミュの仕返しをする姿が可愛いくて、サガは為すがまま結局自らも満足そうに微笑った。







後書き→
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ