■企画・記念小説部屋■

□拍手ログ2009年8月〜10月
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シキアキ(虎穴)





 夕闇迫る堤防に闇を纏った男が二人、座り込んでいる。
 視線の先には波の穏やかな海。
 もうすぐ夜が訪れようとする時間のせいか砂浜には人の姿はない。
 灰髪の男は膝に頬杖をついた姿勢で、黒髪の男は立てていた膝を抱えるようにして海を見つめたまま微動だにしない。
 無言のままの二人を潮風と波音だけが包んでいた。

 やがて太陽が身を沈めきった空が闇に染まると少し離れた場所にある波止場の方から雷に似た音が響いてきた。
 二人同時に音のした方へ視線を向ける。
 ひとつ、ふたつ――と夜空に咲く花。

 黒髪の男はそれきり興味を失った様に視線を逸らすが灰髪の男はじっと花火の上がる方向を見続けていた。
 離れているせいで花火が弾けるのに少し遅れて音がやってくる。花火だけでなくその時間差にも興味を惹かれたらしい。
 興味津々な様子で花火を見つめる姿を見た黒髪の男は呆れたように溜め息をついたが気にもならないほど、目が離せない。
 先刻までうるさいほど聞こえていた波の音すら忘れるほどに。




 花火が終わり、静けさを取り戻した空を見つめたまま男が言う。

「赤い花火がきれいだった」

 コートの裾を遠慮がちに引っ張って、笑顔で言った。
 また、来年も見たい、と。




2017.5加筆修正
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