■企画・記念小説部屋■

□恋人達に聞いてみました
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【サガカミュ編】



「こんにちは!突然ですが恋人とキスしたくなる時はどんな時ですか?」





 非番でアテネ市内を歩いていたらテレビカメラを引き連れマイクを持った女にいきなり声をかけられカミュは呆気にとられた。
「………?」
 事態が把握できず首を傾げると女はにこにこと笑顔を崩さず説明を始めた。

「そろそろクリスマスですよね!そこで世の男性達に恋人についてのアンケートを行ってるんです!ズバリあなたは今恋人がいますか?」
 口を挟む隙を与えないくらいまくし立てる女にたじろぎながらも笑顔を返すと持っていたマイクをずずいと向けられた。
「あ、あぁ…いることには間違いない、だろうか」
「ああやっぱり!お兄さん素敵ですもんね!ズバリ恋人はどんな方ですか?」
「そうだな…とても優しくて頭のいい人だ。ただ時々狡いところがある――」
 リポーターのペースにのせられ話してしまっている自分に苦笑しながらも浴びせ掛けられる質問に答えていく。


「長年想いあってようやく晴れて恋人同士になったなんて素敵ですねぇ!では本日の取材のメインの質問ですが、あなたが恋人にキスをしたくなるのはどんな時ですか?」
「それは――…」
 答え難い質問に一瞬考え込む仕種をした時だった。
 カミュの腰が引き寄せられ、後ろから大きな何かに包まれた。
「あ…っ、サガ?おかえりなさい。探していた本は見つかりましたか?」
「ああ、見つかったよ。それより私に内緒で素敵なレディとおしゃべりかい?」
「あ…」
 突如割り込んできた男にリポーターが驚いて目をぱちくりさせていた。
 しかし新たに現れた見目麗しい男ににっこりと笑うと今度はサガにマイクを向けた。

「こちらの方とお知り合いですか?」
「そうだよ」
「実はわたくしクリスマスが近いということで恋人についてのアンケートを行っていまして」
「ほう」
「ズバリあなたが恋人にキスしたくなるのはどんな時ですか?」
「ふむ?」
 腕に抱き込んだカミュをちらりと見遣る。
 少々気恥ずかしそうに顔を逸らし、テレビカメラの前だからかサガの腕を解こうと密かにもがいていた。
「君は何と答えたのかい?」
「いえ、まだ…」
「そうか。キスしたくなる時は、か……」
 カミュがサガの腕を解くのに成功したと同時に顎を捉えられ、掠めるようにちゅっと唇を奪われた。

「どんな時だってキスしたいと思うよ。私の恋人は可愛くてたまらないからね」

 いきなりの出来事に呆然とする周りを余所にサガはカミュの手を引いてその場から颯爽と立ち去った。






「サガっ!な、何故あんなことをっ!」
 聖域の入口へ辿り着いた早々カミュはサガに詰め寄った。
「何故と言われても。私は正直に答えただけだよ」
「っ…、しかし、人前であのような…」
「おや、"どんな時もクールに"が信条の君がキスひとつでこんなに動揺するとは…らしくないな」

 常日頃弟子達だけでなく己にも言い聞かせている台詞を引き合いに出されカミュの柳眉がぴくりと動いた。
「……ど、動揺はしていません。人前でああいうことはすべきじゃないと言ってるだけです」
「そうかな。君だってカメラの前で恋人について随分と惚気てくれていたけれど」
 ぎくりとカミュの動きが止まった。まさかあれを聞かれていたとは…
「い、一体、どっどこっ」
「どこから聞いてたかと言われてもね…"とても優しくて頭のいい人だ。ただ時々狡いところがある"――の辺りからだったかな」
 それってほぼ全部聞いていたということでは、と言いかけてやめた。
「どういうところが狡いというのかな」
「そういうところがです!いるならいると言ってくれれば――」
「おや、では恋人というのは私のことなのだね?」

 にこにこと上機嫌なサガのその言葉にカミュの心臓が大きく跳ね上がった。
 しまった…はめられた、と思う頃には遅く、カミュの体が不意にふわりと宙に浮いた。
 急に抱き上げられた不安定さに慌ててサガの首にしがみついた。
「あ………貴方以外に誰がいるというのです!」
 サガに翻弄されクールに徹しきれない恥ずかしさをごまかすようについつい声が大きくなる。それがまた図星だと言ってるようなものだと気付いているのかいないのか。
「カメラの前で言った言葉をもう一度言ってほしいな――今度はベッドの上で」
 耳元で上機嫌にくすくすと笑うサガの声が擽ったい。きっと真っ赤になっているであろう顔を隠すように首に回した腕に伏せた。





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