■企画・記念小説部屋■
□恋人達に聞いてみました
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闇に包まれた部屋のベッドの上で冷気から守るように二人肌を寄せ合っていた。
身じろぎの刹那に触れる素肌にカミュの体がぴくりとちいさく跳ねる。
情事の余韻の残る体は僅かな刺激にも反応し、唇から吐息が漏れた。
髪から体のラインに沿って撫でる手にカミュはうっとりと目を閉じた。
この優しくて大きな手だけは昔から変わらない。子供の頃にとても大きく感じたそれは大人になった今でも変わらずそう思う。
幼い自分を悲しみから守り、愛を与えてくれた手。
この手に触れられることが何よりの喜び。
サガは「罪に汚れた手だ」と自嘲するが、どれだけ汚れていようと自分にとって愛しいものであることに変わりは無いのだ。
サガの背中に回した腕に僅かに力を篭めた。
「そういえば聞いていなかったな」
「何がですか?」
見上げると間近にあった青の瞳とかちあう。
柔らかく笑む瞳に己の紅が映り、月光に照らされ不思議な色合いに変わる。
「君の答えだよ」
「私の、答え?」
カミュは僅かに首を傾げる仕草をした。
「君が恋人にキスをしたくなる瞬間、だ」
そういえば昼間の質問はサガに連れ去られて途中で終わっていたのだ。ああ、と思いついてカミュはにっこりと笑ってみせた。
「私の答えなど恥ずかしくてとてもお聞かせできません」
「いいや、是非聞かせてほしいね」
「そんなもの」
背中に回された腕が首へと辿り、サガの顔を引き寄せて下りてきた唇へとくちづけた。
「貴方に触れたい、触れてほしい時に決まっているでしょう」
その答えに至極気をよくしたサガは額を合わせ間近にカミュの瞳を捉えると諦めの声音で言った。
「まったく…君には敵わないな」
今度はサガから口づけられる。
啄むように優しく触れるキスは次第に深くなり、荒く上下するカミュの肌をすべる。
処女雪のように真白だった肌は先の行為の赤い痕跡を残していた。
清らかな存在を踏みにじる罪悪感とそれを自分だけに許されている優越感に揺れながら新たな痕跡を残す。
己の浅ましさに微かに自嘲の笑みを零すと頭上から不意に声が上がる。
「――――雪が」
いつの間にか降り始めた雪が視界を掠める。
はらはらと舞い、窓に当たって静かに消える。
聖夜の雪は己の残した痕跡を隠してしまおうとしている。
時間が経てば愛しい真白の丘陵をさらに白く染め上げ、そこには最初から何もなかったかのように消えゆく。
思わず離すまいと強く抱きしめる。自分より華奢な体は自ら身を寄せてくる。
サガは祈るように腕に力を篭め、瞳を閉じた。
雪よ
聖夜の雪よ
どうか
この愛しい紅を雪で隠してしまわないでほしい、と
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