■企画・記念小説部屋■

□拍手ログ2009年10月〜2010年3月
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【Night wish】
*サガカミュ





 サガは月を見上げていた。
 聖域が眠りにつく夜更け、窓際に佇み言葉無くただじっと見上げている。
 既に中天に近いというのに今宵の月はいつもより大きく、赤く染まって見える。

 まるで血を浴びたようだ、と思う。
 禍々しいと思えるのに何故か惹きつけられる。目が離せない。
 このまま赤い月が沈まず夜が続けばいい――
 夜が明けたら自分は素顔を隠して支配者として振る舞い、世界を従わせなければならない。
 こんなに心穏やかに月を愛でる時間など今だけだ。




 見つめたままどれだけの時間が過ぎたか中天にあった月は岬の向こうの山へとその身を沈めようとしている。
 時間が無情に過ぎるほど高まる焦燥。
 朝日が昇れば後悔と満たされることの無い飢餓感に苛まれ、自分の中のもう一人の自分との自我の鬩ぎ合いに苦しむことになる。
 苦悩を堪えるように体をきつく抱え込み、深く息を吐いた。
 すぐ側でぱさり、と乾いた音がした。音のした方へ歩み寄る。
 天蓋の中のベッドには艶やかな赤い絹糸のような長い髪の少年が眠っていた。
 落ちてしまったシーツを拾い上げて痛々しい蹂躙の痕跡の残る白い体へと掛け直してやると閉じられていた睫毛がふるりと震え、薄っすらと紅い瞳が開かれた。

「……ん…サガ…」
「…まだ起きるには早い。もう少しおやすみ…」 
 眠そうに閉じかける目蓋へキスをしてやる。
「……、…」
 何かを言いかけた少年の唇は音を発することなく再び寝息を紡ぎだす。
 ふわりと微笑んで再び眠りに落ちた少年の細い体を抱き寄せ、自分もまた体をベッドへ横たえる。
 過ぎゆく時間を繋ぎ止めるように、少年を己の腕に閉じ込めてしまうように抱きしめる腕に力を篭めた。
 夜の闇に包まれる、音の消えたこの小さな世界のなんと心地よい―――


 もう少し

 あともう少し

 目が覚めたら仮面の下に心を隠すことができるから

 どうか夜よまだ明けないで







2017.5加筆修正
Fin
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