長編
□感情分裂
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犬夜叉はゆっくりとその背中に近付き、かごめが逃げようとしないことを確認するとやっとの思いで声をかけた。
「かごめ。」
反応は全くない。だがたとえ彼女が無視を決め込んでいるとしてもなんとかしてまっもな話し合いに持ってかなければならないのだ。多少怒らせることは覚悟して犬夜叉は水面に映るかごめを睨んだ。
「いつまでぶすくれてんだ。」
「……知らない。」
小さい声ではあったが確かにそう返した。とりあえず会話をしてくれたことに安堵し彼は口調を柔らかくする。
「お前が何に怒ってんのかはわかんねえけどよ、頼むから元に戻ってくれねえか。」
犬夜叉は優しい言葉をかけたつもりだったのだが、途端にかごめの表情がさらに険しくなる──というよりも、悲しみを帯びる。見ているこっちが泣きたくなるような、そんな顔。
「なんでそんなこと言うの?」
悲痛な叫びの意味は彼に通じない。一体かごめは何が納得できなくて、満足できなくて、何に苦しんでいるのかがわからないのだ。