長編

□感情分裂
1ページ/7ページ




「その様子だと、上手くいったようだな」


一人で帰って来た彼を見て、弥勒はそう言った。犬夜叉はまあな、と返事を濁し、先ほどのかごめとの会話を思い出す。普段は自分の気持ちを後回しにしてばかりの彼女の本音。重く受け止めなければならないことはよく理解していた。

「かごめは……?」

記憶が消えるかも知れないと言われている期限まで残りわずかな猶予しかない。彼女と向き合うことを犬夜叉は再び決意し、弥勒にそう訪ねた。

「かごめ様なら、御神木のあたりで七宝とかくれんぼをしているそうですよ」

「わかった。行ってくる」

しっかりしろよ、と肩を二度叩かれた犬夜叉は小さく頷き走り出した。






「七宝ちゃん、みーつけた!」

「わー!また見つかってしもうた!かごめは見つける天才じゃなあ」

きゃっきゃと笑い合う二人の姿が見え、彼はふっと肩の力を抜く。
目に映る笑顔があまりに綺麗で、輝いていたからだ。その笑顔が力を与えてくれたことが、その笑顔に助けられたことがどれだけあっただろうか、数え切れなかった。


「あ!犬夜叉も、みーつけた!」

突然それをこちらに向けられ、ばっちりと目が合う。犬夜叉はしぱしぱとまばたきをした後、くすりと笑って二人のもとへ歩みを進めた。

「見つけられてやったんだよ、ばーか」

「かごめ、犬夜叉が負け惜しみを言っておるぞ!」

「ねー七宝ちゃん、負けを認めないなんて恥ずかしいよねーっ!」

「そうじゃそうじゃ!」

「んだと〜??」

七宝をひっ捕まえ、こめかみをグリグリ。慌てて止めに入るかごめを無視し、犬夜叉はぶんっと村めがけ七宝を放り投げた。
いい天気じゃ……とつぶやきながら飛んで行った狐妖怪。

「ちょっと!なんてことするのよ!」

慌てているかごめの腕を掴み、犬夜叉は本当に唐突に、何も言わずに抱きしめた。突然の行動に彼女は最初困惑して身じろぎしていたが、やがてそれも収まる。すん、と衣の匂いを嗅ぎ、ちらりと彼の顔を見上げ、次に胸元へと視線を落とす。

「突然どうしたの?嬉しいんだけど……」

ほんのりと赤く染まった頬。彼女はうつむいているため、犬夜叉はその表情を見ることはできなかった。

「どうしたもこうしたもねえ。お前を、元に戻すって決めた」

抱きしめる腕に力を込め、そう誓いの言葉を口にする。かごめはそれに対してクスリと笑い、ゆっくりと自分の腕を広い彼の背中へと回した。

「戻ったらこんな素直にラブラブできないから、やだなあ」

今度はかごめがぎゅうっと腕をしめる番だった。密着度がぐっとあがり、彼女以上に犬夜叉の顔が赤く染まる。

「あ、あの、なあ…」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ