短編U

□あたりまえ
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井戸を通り現代(あっち)から帰ってきたかごめの目は赤く腫れていた。少しだけ残る涙の匂いから何かあったのだとすぐに悟る。
何と声をかければ良いのかと悩んでいると、かごめから口を開いてくれた。

「昨日ね、テーブルを新しくしたの」

てーぶる、てーぶる……草太がいつかそんな言葉を使っていたな。そう、確かあれは、

「あの木の板か」

「うん。あれは私がちっちゃい頃からずーっとあったものでね、もう家の一部であって、私の中の一部でもあったのよ」

確かに、あれは随分使い込まれているようで色んな匂いがまじっていた。そんなものがどうしてかごめを泣かせる原因になるんだろうか。

そんな俺の心を読んだかのように唐突にかごめは言った。

「捨てたの」

「……なんでだ」

「もう新しいのを買うからってじいちゃんが言ってた。なんだか悲しいでしょ、いつもあったものが急になくなるって。だから私は反対した。そしたら『これがないことがそのうち当たり前になるから平気だ』って」

話している間にかごめの目がだんだんと水気を帯びてくる。滴がこぼれる前にごしごしと拭うとかごめは眉をつり上げた。

「久々に怒って家飛び出しちゃった」

「……爺さん心配してるぞ、きっと」
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