短編U

□ひなまつり
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「違う!それは広げてお雛様に持たせるの」

「はあー?じゃあこれはこっちか」

「それはどう考えてもこれに乗せるものでしょ」


ひな祭りへ向けて雛人形を飾るためにかごめは現代に帰って来ていた。当然彼女がそうすれば犬夜叉も自然とついてくる。そして二人で作業をしていたのだが、犬夜叉がいるとどうも時間がかかってしまう。特に雛人形の飾り付けというものは細かいものばかりのためますますだ。

「だーっ!かごめ、休憩だ!」

まだ始めて5分も経っていないのだがもう彼には限界が来たらしい。

「いつもは休憩してる暇なんて……とか言うくせに」

「それはそれだ!」

そう言いながら遠慮なくベッドにうつ伏せになる犬夜叉。かごめは刷毛(はけ)で人形にかかっている埃をほろいながら頬を膨らませた。

「もー、私は早く全部飾りたいのに」

「……」

返事はない。いつもならもう少し会話が続くはず。かごめはそっと彼に近づき背中に手を置いた。

「犬夜叉、疲れてる?」

またもや返事はない。だがこの様子は肯定で間違いないだろう。母が子にするように背中をぽんぽんと優しくたたく。

「おやすみ」

「……かごめは?」

既に眠そうな声の問いかけに、彼女は微笑んで後ろにある雛人形を指さした。

「私はこれ完成させてから」

「一眠りしてからじゃ駄目なのか」

そう言うと同時にぐいっと彼女の腕を引っ張り、犬夜叉はベッドへと引きずり込んだ。顔を寄せ口付けを迫る。

「あ、ちょっと……うう」

顔を背けてためらうかごめ。犬夜叉は思いっきり口をへの字に曲げた。

「なんだよ」

「すごい視線を感じる気がして」

背後にはこちらを見つめる人形達。かごめはどうも落ち着かなかった。

「人形だろ」

「そうだけど……」

「じゃあこうするか?」

犬夜叉がかごめを抱き上げ反対側にまわしたため、彼に視線が突き刺さるようになる。

「後ろのやつ、起きたら少しだけ手伝ってやるから」

今は――そう言いながら再び迫る唇は今度は拒まれることなくかごめのそれと重なった。軽く音を立てて離れた後は互いに少し顔を赤く染め見つめ合う。かごめは気恥ずかしさから布団に潜り込むとぎゅっと目をつむった。その小さな身体を抱き締め、犬夜叉もまた目を閉じる。


二人が眠るこの部屋に草太が訪れるまで、あと5分ーーー


end
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