短編U
□一人想う
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「実家に帰る!犬夜叉のバカ!」
「二度と帰ってくんなばーか!」
売り言葉に買い言葉。
久々の大喧嘩の末、かごめは雲母に乗って井戸の方へと向かっていった。
その場に残された犬夜叉、弥勒、珊瑚、七宝。犬も食わない痴話喧嘩に巻き込まれた仲間は揃って深いため息をついた。
「何ため息ついてんだ!奈落はすぐそこだ、追うぞ!」
珊瑚達はどうこの拗ねた少年にかごめを迎えに行かせるかそれぞれ考える。
「いいの犬夜叉?かごめちゃんいないと先に進めないでしょ」
「なんとかなる!」
「かごめ様はきっとお前と喧嘩したことを悔いていますよ。すぐに迎えに行ってあげなさい」
「なんでおれがんなことしなくちゃいけねーんだ」
「犬夜叉、お前が大人になれ。かごめはまだ子どもなんじゃ」
「……ふん、仕方ねえな。あいつが反省して戻ってくるまで出発は待ってやるよ」
迎えに行く気は起きないらしいが、どうやら少しは効果があったらしい。一先ず一行は楓の村へ戻ることにしたのであった。
そして3日後。
「かごめちゃん、遅いね……」
かごめは未だに戦国時代に戻ってきてはいなかった。3日も待てば戻ってくるだろうと考えて、迎えに行くことを必死に堪えていた犬夜叉のイライラはピークに達していた。
(かごめのやろう〜!何してやがんだ!)
楓の小屋の中にピリピリしたムードが流れる。そんな中、まだ幼い七宝は空気を読まず声を上げた。
「ああ〜犬夜叉があんなこと言うから、かごめはもう二度とこっちに来てくれないんじゃ!」
ゴン!
寸分の間も置かずに犬夜叉のゲンコツがその小さな頭に落ちる。
「うるせえ七宝!それじゃまるでおれが悪いみてえじゃねえか!」
ぷく〜っと腫れ上がるたんこぶを抑えて泣く七宝を珊瑚が慰める。見かねた弥勒がポンと犬夜叉の肩を叩いた。
「犬夜叉、迎えに行って差し上げなさい」
「けっ、やなこった」
「かごめ様はお前が来るのを待っておられるのです」
説得を試みる彼に、珊瑚も加勢した。
「そうだよ、犬夜叉が迎えに来てくれないこと、すごく悲しんでると思うよ」
「……」
「犬夜叉、ここはお前がひとつ大人になって行くべきですよ」
大人、という言葉にどうも犬夜叉は弱いらしい。彼はにんまりと口角をあげ、重たい腰をようやく上げた。
「ったく仕方ねえな、かごめはガキだからおれが迎えに行くしかねえか」
言うが早いか、犬夜叉は井戸めがけて一目散に走っていった。残された楓の小屋に、呆れた珊瑚の声が響く。
「……ほんと、素直じゃないね、あいつも」