短編U

□贈り物の行方
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クリスマスソングの流れる平成の世。
浮かれた恋人たちの中に紛れ、一人小走りで目的地への向かう少女がいた。
日暮かごめーー彼女もまた恋人のためにクリスマスプレゼントを買いに来たのである。

冷たい風が吹く中、隣に彼のいないかごめは自らの肩を抱き寒さに耐えていた。

「さっむ〜い!凍えちゃう凍えちゃう、早くお店の中入ろうっと」

普段は足を踏み入れない男物の店。
かごめは一人で入ることにためらいつつも、勇気を出して扉を開けた。

店の奥から男の店員が「いらっしゃいませ」と頭を下げる。店はそこそこ混んでいて、手が足りないようであった。

かごめは目的の物を探す。色、柄、どんなものが彼に似合うだろうかと考えながら。

前にいる少年が見ているマフラーが良さそうだなと狙っていると、かごめはあることに気がついた。

「あれ?北条くんじゃない」

北条はその声に振り返るとパァッと顔を輝かせた。

「日暮!偶然だね、こんなところで会うなんて」

「うん、今日はプレゼントを買いにね」

「そ、そっか。おれの好きな色とか教えたほうがいいかな?」

北条は自分がプレゼントをもらえると思っているらしく、頬を赤く染める。対してかごめは彼の言っていることがよくわからなかったため、頭の上にはてなマークを浮かべていた。

そしてかごめは気づかなかった。そんな二人のやりとりを恨めしく見ている者がいることにーー



「かごめのやろ〜!他の男とべたべたしやがって!」

店の外のガラスに張り付いている男はもちろん犬夜叉である。戦国時代で待っていろと何度言われても彼はここまで彼女の匂いを辿り追ってきたのだ。

「あの布をあいつに贈るつもりなのか……?許さねえ……」

ぶつぶつと呟く赤い衣を指差し、通り過がりの小さな子どもは「あっ」と声を上げた。

「見てみて、あのお兄ちゃんサンタさんみたい」

しかし、

「ああっ?!なんか言ったかガキ!」

振り返った男の顔は優しいサンタではなく牙を剥いたまるで鬼のような形相をしていた。

「わーん!サンタさんじゃないー!」

走って逃げていった子どもに対しフンと鼻を鳴らし、犬夜叉は店の中を再び覗き見た。しかしかごめがいない。
どこに行ったのかと思えば、すぐ隣の扉を開けて彼女は出てきた。手には紙袋をぶら下げている。

「くぉらかごめ!」

彼はすぐさま彼女の前に立ちふさがった。

「犬夜叉?!向こうで待っててって言ったのに…」

「あ、君は日暮の友達の…」

「てめーは黙ってろ!」

後ろからひょっこりと顔を出した北条に対し犬夜叉は思い切り頭突きを食らわせた。目を回した北条は、まるで眠りの小○郎のようにバランスよく隣に設置されてあるベンチへと座り込み気絶した。

「北条くんに何してるの!」

その声も無視した犬夜叉はかごめの手を取るとグイグイと引っ張り人気のない路地裏へと連れ込んだ。

「ちょっと、犬夜叉!いきなりなんなのよ!」

「かごめ、その袋の中身はなんだよ」

犬夜叉は真っ直ぐ彼女と向き合うと、例の紙袋を指差した。

「えっ?」

ビクッと肩を揺らしたかごめは慌てて紙袋を後ろに隠した。
その行動にますます犬夜叉の眉間による皺を深くする。

「おれに言えないのかよ」

「だって……」

かごめは渋っていたが、犬夜叉が睨みを効かせると観念したように息をはいた。

「わかったわよ、もう」

そう言って、紙袋を両手で犬夜叉に差し出す。

「本当は夜に渡したかったんだけど……はい、犬夜叉にプレゼント……贈り物よ」

「……おれに?」

てっきり北条へのものだと思っていた犬夜叉は拍子抜けしてしまった。そして自分がどれだけ馬鹿なことをしたかを今更になって反省する。

「そうよ。ってもしかして、これが北条くんにあげるものだと思ったから怒ってたの?」

黙り込む犬夜叉を見てかごめは困ったように微笑んだ。

「なんだそういうことだったのね、ほんとヤキモチ妬きなんだから」

「うるせー……」

犬夜叉は受け取った紙袋を開き、ラッピングをといてかごめからの贈り物を取り出した。
現れたのは深緑色の長く柔らかい布。


「これって……」

「マフラーっていうのよ」

「まふらあ……」

言われた言葉を繰り返す。かごめはクスリと笑って彼の手からマフラーを取り、首に巻いてあげた。

「こうすると…ほら、あったかいでしょ?」

犬夜叉の赤い衣と緑色のマフラーはまさにクリスマスカラー。激しい戦いの中でもこんなに幸せな時間があることをかごめは本当に嬉しく感じていた。

「それとね……クリスマスイブだから、こうして、こうして……」

彼女は犬夜叉に巻きつけていたマフラーを半分ほどくとその半分を自分の首周りに巻きつけた。
自然と顔の距離が近くなり、ほんのりと二人の頬は赤く染まる。

「一緒にあったまるのもいいでしょう?」

「……おう」

にっこりと笑うかごめに犬夜叉は先ほどまで嫉妬していたことなど忘れてこくりと頷いた。
そんな彼とマフラーで繋がれたまま、かごめはうんと背伸びをして雪のように真っ白な犬耳へ唇を寄せ囁いた。



「メリークリスマス、犬夜叉」



end
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