短編U
□あたりまえ
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俺だってかごめに怒鳴られて向こうに帰られた時にはさすがに慌てるからな。あの爺さんならかごめを呼び戻すとかいうインチキ札をまた井戸に張りかねない。
「けど頭に来たんだもの。失ったことが当たり前になるって、すごく悲しいことだと思わない?」
そんなふうに言われてもいまいち理解できない。
「例えば私が明日消えたとして、もう半月も経てばそれが『当たり前』になるのよ。」
「そんなの許さねえぞ!」
かごめがいなくなるなんざ冗談じゃねえ。ましてやそれが当たり前になる、なんて俺は絶対にさせねえ。
「でしょ?だから今日はもうこっちにいるわ。ほんとは向こうでテスト勉強したかったけど」
「おう、こっちにいろ。……けど明日は話し合って来いよ」
かごめと喧嘩してるってのはなかなか辛いからな。かごめを大切にしてる同じ男として、早く仲直りしてほしいとも思ってる。俺もいつの間にかとんでもねーお人好しになってしまったようだ。
とりあえず、明日まではかごめを独り占めしてやろう。
end