甘・ギャグ夢

□春風に運ばれて
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池袋にも春はやって来た。





道路の両脇に植えられた桜が待ちわびていたかのように咲き誇っていた。





「ねぇそこの彼女ー、俺とお茶でも飲まない?」






「ねぇいこー」「そうだねー」





とまぁ俺はナンパに精を出している訳だが、なんせ子猫ちゃん達は照れ屋だからなぁ





こう逃げちゃう訳だ、別に照れなくても良いのにさっ☆





残念ながら今日は委員会で帝人も杏里も一緒には帰れず、俺は一人で池袋をブラついていた。





春、といえば花粉症もきつく。殆どの人がそそくさと家路に着いてしまっている。





今日はここら辺で諦めるかーと思っていた時だった。





「やぁ、紀田正臣君」





ぞわり、と背筋に悪寒が走る。





こんな365日24時間、何かを企んでそうな声はこの世界に一人しか居ないだろう。





ギギギと錆びたロボットのように首を後ろに向けるとそこには予想した通りの人物が居た。





「やぁ、無視かい?いい度胸してるよね、相変わらず」





「な、何言ってるんすか臨也さん。こんなとこで会うなんて奇遇ですねーじゃ俺忙しいんでまたー」





最初から最後まで棒読みな台詞を一気に言うと、俺はその場から逃げるように立ち去った





いや、立ち去りたかった。





「やだなぁ、そんなあからさまに逃げないでくれる?」





ガシリと腕を掴まれ逃げようにも逃げられない。顔に冷や汗がダラダラと落ちる





「ナンデショーカ、イザヤサン」





「何でカタコトで話すの?それ君のギャグ?」





さっむーいとか言いながら笑うこの男はどうしようもなく嫌いだ(あとギャグじゃねぇし!)





逃げたい逃げたい逃げたい。





その一言に尽きる、今、この男から俺を助けてくれる人が居ればそれが運命の人だ!





あぁ誰か助けて、助けて助けて・・・・・・。





奇跡に縋るように祈ると、臨也さんの後ろの方から何かが落ちてくるのが見えた。





「あ、」





「?それ俺の注目を逸らす為?だったら騙されてやんないけ―ドゴッ





激突。大きな音を立ててぶつかったというよりゴミ箱が降ってきた(、、、、、)





その瞬間、臨也さんの手が俺の腕から離れ。俺はすぐさま距離をとる





「いったいなぁー、ほんと酷いことするよね。シズちゃん」





「その名前で呼ぶんじゃねぇええええええ!!!!」





とゴミ箱を投げた(、、、)であろう男が今度は道路に建っていた交通標識(、、、、)を振り回す。





「あはは、今日のところは逃げるとするよ。じゃーねー正臣君」





急に名前を呼ばれてビクリとする、臨也さんを狙っていた男は手に持っていたそれ(、、)





走り去って行った臨也さんに向けて投げ、結局かわされ舌打ちをした。





俺はただその状況を一番間近で見ているだけであったが・・・・・・。





「お前、大丈夫か?」





「へ?」





急にその男は自分の方へ向き、そう声をかけてきた





「さっきノミ蟲に腕掴まれてたろ?」





「あ、あぁ・・・おかげさまで、助かりました」





見ていたのか、彼は困っていそうだったからと俺を助けてくれたのだ。





ありがとうございます、と礼をすると良いって、と謙虚に返された。





だがそんなやり取りなど俺の頭には届いておらず、ただ彼を見つめていた。





俺の偽者とは違う綺麗な金髪にサングラス。そして昼間からバーテン服を着たその男は





"池袋最強"と謳われている、"平和島静雄"で。





頭の中にはさっき自分が考えていた台詞がエンドレスリピートしていた。





今、この男から俺を助けてくれる人が居ればそれが運命の人だ!





「運命の・・・人」





「ん?何か言ったか?」





暴れて乱れた服を直しながら平和島さんはこちらを見る。俺の独り言はどうやら聞こえなかったようだ





「平和島さん!」





「うぉ、なんだよ・・・」





いきなり大声をあげた俺を怪訝そうに見つめるが、そんな事はお構いなしだ





「助けて下さってありがとうございます!まずはお友達になって下さいっ」





そう言って頭を下げ、右手を差し出すと平和島さんは本当に驚いた顔をしていた。





「お前・・・・・・臨也に何か変なことされたのか?」





どうやら俺が臨也さんに変なことされて頭が狂っていると思っているらしいが、俺は至って正常だ





「俺、平和島さんのかっこよさに惚れました!出来たら付き合って欲しいです!」





「は?」





春風が、二人の間を吹き抜ける。





風は花だけでなく、俺にも、





春を知らせてくれたようだ。






春風に運ばれて


(それは)

(非常にデンジャラスな恋物語の幕開け)





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