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□クラッカスの戯言
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「ナツさんの匂いがする」
スティングくんとバッタリ鉢合わせるなり、彼はむっと顰めっ面でそう言って私に一歩詰め寄った。この距離でナツさんの匂いが分かるとは、スティングくんのナツさん愛恐るべし!
「さっき偶然会って。少し話してたの」
「…いや、話してただけにしては匂いが濃い。他に何してた」
「え〜?久しぶりだなァ!って言われてハグしたくらいで…、ちょ、怖っ!何もそんなに睨まなくても」
なんなの、スティングくんナツさんの彼氏なの?どんだけ好きなの、とか言ったらもっと機嫌損ねそうだから言わないけど。スティングくんの鋭い視線に思わず怯んでしまうと彼自身も目付きの悪さに気がついたらしい。はっとした様子で悪い…と私から視線を逸らした。そうやってしゅんとした顔で謝ったりするからズルい。ちょっと可愛いとか思ってしまった。
「ううん、スティングくんナツさん大好きだもんね。私ももう少し自重するよ、ごめんね」
「…?なんか微妙に話食い違ってないか?」
「うん?ナツさん取られて怒ってるんじゃないの?」
「ちげーし!ぜんっぜん、いやちょっとは当たってるけどちげーしっ!」
「…???じゃあ何でそんなに怒ってるの?」
スティングくんの怒る理由がイマイチよく分からなくてきょとんと首を傾げると、今度は困ったような顔で言葉に詰まるからやっぱりよく分からない。
「っ、それ、は…っ」
心なしか、スティングくんの顔が赤い気がする。見つめあった末にスティングくんがはあ〜だなんて重たいため息を吐きながら自身の髪をくしゃっと掻き上げた。
「…アンタって隙だらけな時があるだろ。だから、…心配、なんだよ」
「えー、そんな事ないよ。心配してくれるのは嬉しいけど」
「そんな事あるだろ!この前だってルーシィさんとこの精霊に口説かれてたの知ってんだからな!」
「なっ、何故それを…」
つい最近ルーシィさん宅のレオさんとファーストコンタクトを取ったのだけれど、目が合った瞬間にぐっと腰を抱かれ顎をくいっとされててもう既にヤバかった。イケメンとあんな至近距離になるのなんて初めてであからさまに真っ赤になっていると可愛いねだなんてストレートに言ってくるし、ただでさえ近い距離なのにもっと腰を抱かれて引き寄せられるから堪らない。ルーシィさんが止めてくれなかったらそのままキスされてたかも…。思い出してまた赤面をしていると、スティングくんが眉間に皺を寄せながらそら見ろ!と声を上げる。
「こういうのは隙だらけって言わないよ」
「…真っ赤になりながら言われても説得力ねーし。隙があるからそう簡単に男に口説かれたり抱き着かれたりすんだろ」
「…?駄目なの?」
純粋に疑問に思ってそう問いかければ、スティングくんは当たり前だろ!とまた目くじらをたてる。ナツさんじゃないけど、口からゴー!って火が出そうな勢いだった…。何で私こんなに怒られてるんだろう。
「アンタは女の子なんだから、もっと自分を大事にしろ!」
「う、うん、分かった」
大袈裟だなぁと思ったけど、反発するとまた怒られるのが目に見えてるので素直に頷いておく。スティングくんは相変わらずの顰めっ面を保ちながら「…それで、」と言葉を繋げた。
「アンタ的にアイツは有り、な訳?」
「レオさん?普通にカッコいいよね。私カッコいい男の人にあんな強引にされるの初めてでドキドキしちゃった」
思い出すだけで顔がにやけちゃってそのままキャッキャとはしゃぐと、スティングくんに凄い形相で睨まれてるのに気づいてギョッとした。テンション一気に下がってクールダウンした。やだ、怖い。
「ぜんっぜん反省してねぇし」
「…レオさん、ダメ?」
「駄目だな。百歩譲ってナツさんだから。譲る気もねーけど」
「えー、なんかよく分からないよスティングくん」
「…いいよ、アンタはまだ分からないままで」
なんでよ!教えてよ。そう言う前に、スティングくんが「ああいうのがいいの?」と問い掛けてくるので一瞬黙り込む。
「うん。ああいう強引な人は結構好き」
「…そうかよ。別にアンタが誰を好きになろうが勝手だからいいけどな。そんなに言うならもう口出ししねーし!」
ふんっ!と鼻を鳴らしてソッポを向くスティングくん。子供か!機嫌全然良くならないなぁ。さっきからずっとムッとした顔で怒ってばっかり…。
「そんな顔しないでよ」
「誰のせいだと、」
「スティングくんは顰めっ面よりも笑顔の方がカッコいいよ」
「…」
スティングくんは割と純粋で素直だから、そうやってスティングくんの良いところを褒めてあげると私の目をチラリと見やって。ちょっとずつ顰めっ面を解いて「そうかよ…」と唇を尖らせた。よしよし、このまま機嫌直してくれるといいなぁって思って、そうだよ!と笑顔ではにかむ。
「スティングくん最近ナツさんに似てきたよね」
「マジで?」
「うんっ!仲間思いな所でしょ?あと強い所と、リーダーシップある所」
大好きなナツさんに似てると言われて気を良くしてくれたのか、スティングくんが少し照れたように笑う。うんうん、やっぱりスティングくんは笑顔の方がいいよ。「ニッと笑った顔とか凄くナツさんに似てるもんね!カッコよくて好きだなぁ」勢いのまま褒めちぎったその瞬間、何故だかスティングくんは今まで通りぶすっとした顔で私を見るのでアレ…?と私はフリーズする。もしかして今地雷踏んだ?どこで!?
「ど、どうしたの?」
「…何でもねぇ」
嘘だよ、絶対なにかあるじゃん。でもまた機嫌を損ねてしまった原因が何か判明してないから下手に聞けない…
「…ナツさんみたいに笑う俺が好きなのかよ」
「…ううん、逆。スティングくんの満面の笑みが好き。ナツさんが眩しく笑うの見てると、スティングくん思い出してついドキッとしちゃうくらい。私はスティングくんが好き」
「…ん?」
ああもう、言っちゃったよ。あまりにもスティングくんが機嫌を直してくれないから。これで直るとも思えないけど、言ってしまったからには告白を貫くだけだ。
「スティングくんが好きだよ」
広げた両腕をスティングくんに向けてギュっと抱き締める。私からしたらスティングくんも十分隙だらけだ。
20190123