other2

□アナタに片想いしてました
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最近よく一緒になる男の子がいる。オレンジ色のツナギが目を引いて、ゴーグルがチャームポイントの機械技師くん。彼と初めて一緒に参加した試合の時、ダウン放置されて頭を抱えたまま動けない時があった。荘園に来たばかりでルールも曖昧、マップも覚えきれなくて迷子の挙句初っ端から足を引っ張ってしまって、皆に申し訳ないし不甲斐なくなる。泣きそうになりながら自己回復していると不意に私に影が差して咄嗟に顔を上げた。


シルバーの固そうなボディがツヤツヤと光を反射している。宇宙人みたいな見た目のソレにギョッとして一瞬涙が引っ込んだ。キシキシと僅かに音を軋ませながら、彼?はポンと私の頭を撫でて治療を開始してくれたのでキョトンと目を丸める。敵、では無さそうだけど…。でもゲームが始まる前にこんな人居なかったし、今だって通信機に映っているサバイバーは私を含めて4人だし。…よく分からない。


「あの…ありがとう、ございます」


最後まで治療してくれた彼にぎこちなくお礼を述べる。特に反応は返って来なかったし、表情1つ変えずに彼はキョロキョロと辺りを見回していた。取り敢えずどこか暗号機を見つけて解読の続きをしないと。そう思っていると彼にギュッと手を握られて、そのまま走り出したので私も手を引かれながら後を着いていく。私の手をしっかりと握り締める彼の手は固くて少しだけ冷たかったけど、中身は温かくて優しい人なんだろうなと思った。私の様子を伺うようにチラチラと振り向きながら走っては速度を合わせてくれる彼に、ときめかなかったと言えば嘘になるかもしれない。


誘導されるまま走って行くとピコピコ音を立てる暗号機が見えて、その近くには人が立っていた。ガチャガチャとリモコンのような物を弄っていたその人物を前に、今まで私の手を握っていた彼はパッと手を離して近くの茂みに姿を隠したのを見てあっと思う。もしかしてこの人が、彼の中の…。もう一度暗号機前にいた人へと視線を戻した時には暗号解読を再開していたので、私もはっとしたようにその人の向かいに並んで見様見真似で暗号機に触れた。


気まずいような、気まずくないような無言の中でこっそり一瞥してみる。澄ました表情がクールでカッコいいと思った。相変わらず無に近い表情でただ静かに解読に集中する姿は、さっきのロボットくんを彷彿とさせた。ハンターさんが近くにいる訳でもないのに。さっきから心臓がソワソワと落ち着きない。この気持ちは一体何なんだろう。動くたんびにフワフワと揺れる麦色の髪を、気付くといつも目で追うようになっていた。







待機中BGMが流れる中、私の隣では技師くんがいつものようにリモコン弄りに没頭している。一緒に解読したり怪我を治してもらったり、今まで2人きりになる機会は多かったはずなのに、私は未だに彼とちゃんとした会話をした事が無かった。宜しくね、って。その一言くらい言えたらいいのに。いざ口にしようとすると喉につっかえて出てこないから溜息が出る。浮かない顔をする私に気付いてくれたのか、技師くんがトン、と軽く机を叩いて私の顔を覗き込んだ。心の臓がドキ、と跳ねる。何かを言いかけようとした技師くんだけど、丁度そのタイミングで準備時間がゼロになってしまって、強制的に始まったゲームに視界が切り替わった。


技師くんは今頃どの辺にいるんだろう。ハンターさんに追い掛けられたりしてないかな。いつものようにロボットくんを出して暗号解読に勤しんでるのかな、とか。近くにあった暗号機を回しながらも技師くんの事ばかり考えてしまう自分になんだか気恥ずかしくなる。


…はっ!ゾクリと走った悪寒に慌てて近くの岩場に隠れたけどどうしよう、走ってきたから足跡が残っちゃったかもしれない。案の定、私の走った跡をぴったりと追いかけるようにしてやってきた復讐者さんの姿に、慌てて立ち上がれば何かに引っかかってすっ転ぶ。さいあくだぁ。ゴーンゴーンと鳴り響く音。後頭部に走る鈍い痛み。堪らず走り出して小屋の中に逃げ込んですぐに出た。地下室が見えたから、ここで捕まって地下吊りなんてされたら確実に足手まといになってしまう。それだけは避けたくて、小屋を出て直ぐに板場の影へと隠れてしゃがみ込んだ。


段々強くなる心音にギュッと出来る限り縮こまって板にしがみつく。ハンターが近くにいる。通信機でそうメッセージを飛ばしてハンターさんが遠くへ行ってくれる事を祈るものの、隠れている私を探し出そうとウロウロするハンターさんに心臓の音が変動するので気が気じゃなかった。ひっそりと呼吸をしながら出来る限りの気配を消していると、次第に心拍数が緩やかになっていくのでホッと息を吐く。


ポン。


そのタイミングで背後から頭に手を乗せられて、大袈裟な程に飛び上がった。心臓止まっちゃうかと思った。ビクビクしながら振り向くと、同じく驚いたような顔でキョトンと固まる技師くんの姿。


「っ、え、」


どうして、ここに。戸惑う私に構うことなく、技師くんが薬箱を開けながら私の傷を手当てしてくれるので大人しくする。偶然近くにいたのかな。ゲームで勝つ為とはいえ、こうして技師くんが治療をしてくれるのが何だかんだ嬉しかった。隣に並んで解読をするのも、無事みんなで出られた時も、技師くんと一緒にいられるだけで幸せだった。いつもは目を見るのも恥ずかしくて言えなかったけれど、今回は勇気を振り絞って彼の事をしっかりと見つめながらお礼を言った。


「…ありがとう」


ぽかんと、少し口を開けて間の抜けた顔をした後、技師くんが柔らかく笑ったのでうわと思った。笑った顔、初めて見た。可愛い…。ドキドキとする胸に苦しくなっていると、技師くんに手を差し伸べられたので咄嗟に握り返す。そのまま引っ張られた勢いでついポスッと技師くんの胸へと飛び込んでしまったので慌てて謝ろうとして、ふと感じた違和感に私はあれ?と首を傾げた。なんか、やわい、


「大丈夫?」


初めて技師くんの声を聞いた。想像していたよりも数倍ソプラノで、可愛い声をしていた。不思議そうにしながら私の顔を覗き込む技師くんに、私は今までとんでもない勘違いをしていたのかと悟って一気に恥ずかしくなる。


「大丈夫、です」


中性的な子だなとは思っていた。小柄だし、背丈も私とあんまり変わらないし。でもそうか、技師くん、じゃなくて技師ちゃんは女の子だったんだね、とか。失恋にも似たショックを感じて勝手に落ち込んでいると技師ちゃんに手を握られて不覚にもどきりとしてしまう。そのまま走り出した技師ちゃんにつられてついて行くと、ふといつかの出来事を思い出して何だか懐かしくなった。あの日と同じようにチラチラと私の事を振り返りながら走る速さを合わせてくれる技師ちゃんの手は、凄く温かくて優しかった。



20190206

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