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□心臓に毒を回されてしまったのだろう
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※無理やり系、その他性的な描写が含まれています



「やぁ、目が覚めたようだね」


低い声が鼓膜を震わせてびくりとする。薄暗い部屋の中、ポツンと置いてあるベッドの上で寝かされていたようだった。ぼんやりとしていた意識が段々とハッキリしてきて、思い出す。そしてゾワリと心臓が騒ついた。そうだ、わたし、仕事の帰り道に知らない人たちに襲われて…。異様な程までにビクビクと怯える私に、キャラクター物のお面をしたスーツ姿の男がゆっくりと近付いてくる。


「や、やだ、来ないでっ、」

「大丈夫、君を傷付けたりはしないよ。約束しよう」


とか言いつつ、彼は既に信者を使って私を誘拐しているので説得力はない。身体への傷は一切無いように見えても、心にダメージを負わせるのには十分だった。怖い。率直にそう感じて身を震わせるわたしの頬を、彼がおもむろに手の甲で撫ぜるのでビクリと跳ねる。


「まぁまぁ、落ち着いて。まずは深呼吸だよ」

「っひ、」


ベッドへと乗り上げるなりわたしの背後へと回ってきたともだちが、無遠慮にわたしの両肩へと手を置いて揉み解してくるので声が引き攣った。び、ビックリした。驚いたのと、警戒心と、身体を強張らせながらカチコチに固まるわたしを傍目に、ともだちは淡々とわたしの肩を揉んでいる。しっかりと力強く、わたしの背筋を伸ばすように誘導して。その揉み方は、親友がわたしの緊張を解す時によくしてくれていた揉み方に酷く似ていた。子供の頃から上がりやすいわたしを見兼ねて、ほらほらリラックス〜と無邪気に笑いながらわたしの肩を揉んでくれていた彼女を思い出して、つい身体から力が抜けていく。最近はお互いに忙しくて会えてないけど、元気かな。元気だといいな。

不意に、肩にあった手がスルスルと下へと滑り落ちてきたのにハッとした。再び緊張状態へと戻ったわたしを無視するように、ともだちの大きな手がポフンとわたしの胸を柔らかく包み込む。心臓のザワザワが大きくなって、顔が一気に青ざめた。


「や、やだっ、やめて、っ」

「大丈夫、力を抜いて」


すぐ耳元で聞こえた声に身震いをして震え上がる。リラックスしかけていた意識が一瞬にして現実世界へと引き戻された。そうだ、今わたしの後ろにいるのは親友じゃなくてともだちなんだ。身を捩って抵抗しようとするもののともだちを相手に敵うはずもなく。それまでフワフワと優しく触れていた手が、今度はしっかりと揉み込むようにして触ってくるので身悶えた。


「っふ、う、!」


可笑しい。ともだちがわたしの胸を揉む度にムズムズとした快感が身体の内側で燻って堪らなくなる。それは、好奇心から自分で触ってみた時とは比べ物にならない程の快楽だった。むず痒くて、もどかしい。怖いし嫌なのに、心の奥底ではもっと触って欲しいと思ってしまうのに嫌気が刺した。 ピクリと逐一反応を見せてしまうわたしを見て、ともだちは満足気にしながらクックッと喉の奥で笑う。


「どうかな、気持ちいいかい?」

「…わたしに、いったい、…何をしたの、」


今まで男の人とそういう事をした覚えが無いから分からないけど、それにしても胸を触られただけでこんなに感じてしまうのは可笑しいと思った。ふぅふぅと浅く短く呼吸を繰り返すわたしを抱きかかえながら、ともだちはゆっくりとわたしのシャツへ手を伸ばしてボタンを丁寧に外しにかかる。


「…少しでも感じてくれた方が、あとあと君も楽かと思って」


その言葉にゾッとして一瞬思考が停止した。この男は、本気でわたしの事を犯すつもりなんだ。理解した途端にぶわっと冷や汗が出て肝が冷える。


「やめてっ、触らない、で!あっ、ん!」


何かが弾けたようにジタバタと暴れ出すわたしの腕を瞬時に絡め取りながら、ともだちは「駄目じゃないか」と低めの声でわたしに言いつけて。手をブラの中にまで侵入させると直に触れてきたので肩を竦めた。お面を半分ズラすとわたしの唇にそっと口付ける。じんわりと目に涙が溜まって視界が潤んだ。必死に顔を背けようとすれば顎を掴まれて無理やりともだちの方を向かせられる。間髪いれずに再び唇を塞がれて、今度はさっきよりも深くキスをされた。


「っん、ふ、う」


何度も何度も角度を変えて。その度に深みを増していく口付けに吐息が漏れる。チュッチュと可愛らしい音を立てていたキスから一変、僅かな隙間からぬるりと入ってきたともだちの舌が、じっとりと舐るようにわたしの舌を追いかけ回す。ある程度わたしの咥内を犯し終えて満足したのか、漸く唇が離れた頃にはわたしも大分トロンとしていて自分の身を支える事すら出来なくなっていた。ともだちに凭れかかりながら、なんとか口元の唾液を拭う。今ならともだちのお面を取り払って素顔が見られるかもしれない。それぐらい近い距離にいるのに、今のわたしにはそんな体力すら残っていなかった。


「ふふ、キスでいっぱいいっぱいなんだ。かわいいなぁ」


悲しくて、悔しくて。ポロリと目から涙が零れ落ちる。それでもともだちは微動だにせず、ついに手をわたしのスカートの中へと伸ばした。喉の奥を引き攣らせながら腰を引く。けれどすぐともだちに抱き寄せられて無駄に終わった。ともだちの指がトン、と叩くようにしてそこに触れて、ゆっくり焦らすように割れ目を行き来し始める。敏感な所に触れる度にピクンピクンと身体が跳ねて、感覚が段々と短くなった。


「あっ、あっ!んんっ!」


自分の口から出る艶のある声に耐え難くなって、手で口を塞ごうとしたらともだちに手首を掴まれて固定された。声、もっと聞かせて。耳元で囁かれた声すら快楽の材料になる。

なだれ込むようにしてベッドへと押し倒されるなり、ともだちはわたしの足をぐっと左右へと割ると自信の身体をねじ込ませて下着の脇から指を入れた。ぬぷ、と、ともだちの指がゆっくりゆっくりわたしの中に入ってくる。下腹部に感じる不慣れな圧迫感に眉根が寄った。


「ほら、もっと力抜いて」

「…も、だめ、…やめて、」

「大丈夫、これからもっと気持ち良くしてあげるよ」


ともだちの言葉が鼓膜を震わせ脳髄を揺らす。それがわたしには死刑宣告に聞こえて、ただ黙って絶望した。駄目だ、このままじゃあ襲われる。ついにカチャカチャとともだちの方からベルトの外される音がして、わたしは血の気の引いた顔で思い切ったように声を上げた。


「お願いっ、それだけは止めてっ…わたし、わたし初めてなの!だからっ、!」


ああ、言ってしまった…。この歳にもなって男性経験が無いっていうのは自分でもコンプレックスに思っていたし、本当は他人にバレるのも恥ずかしくて嫌だったけれど、この際仕方ないと腹を括った。お願い、そう、目に涙を浮かべながらともだちに懇願してみる。けれどともだちは再び喉の奥で笑うだけで、その狂気じみた笑いにゾワリと全身に鳥肌が立った。


「知ってるよ」

「…へっ」

「大事に、大事に、取っておいたんだもんね」

「…なにを、言ってるの…?」

「もう叶う事はないと分かっていながらも、まだ君は好いているんだろう?」


落合くんの事。彼の口からついて出た名前に大きく目を見開く。自然と思い出すのはわたしの初恋の人の姿。廊下ですれ違う度に振り返り見て、話せた日は飛び上がる程に喜んで。些細な事に一喜一憂していた、小学校時代の淡い淡い片想い。彼以上に好きな人なんて出来なかったし、もうそれでいいと思っていた。でもそれは胸の内にしまっていたつもりだった。誰にも言った覚えがないのに、何故ともだちがそれを知っているのか。頭が混乱して軽くパニックになる。


「どうして、それを…」


震える唇でやっと言葉を紡ぐと、ともだちはお面越しにじっとわたしの目を見据えて言った。


「君が落合くんを目で追い掛けていたように、僕も君をずっと見ていたからさ。ずっと、ずうっと、ね」


その返事に絶句して固まる。ともだちは慈しむようにわたしの頭を柔らかい手付きで撫でると、どこか嬉しそうにしながら続けた。


「でもやっと君が手に入る。まっさらで純真で、ずっと一途だった君を、僕の手で漸く穢す事が出来るんだ」

「…あなたは、誰…?どうしてこんな、酷い事するの、」


極度の緊張と恐怖がピークに達して、線が切れたようにハラハラと涙が頬を伝って滑り落ちていく。小さく鼻を啜りながら震える睫毛を伏せると、ともだちが親指の腹でわたしの涙を拭うので反射的に瞼を持ち上げた。


「…ごめんね。優しくするけど、痛かったら言ってね」


ともだちの手がわたしの頬に触れながら、ゆっくりと距離を埋めて自身を押し当ててくる。少しずつ時間を掛けながら、中に入ってくるともだちに息を呑んで顔を顰めた。


「っく、やっぱりキツイ、ね」

「っふ、う、」

「大丈夫。大きく息を吸って、僕の事を見て」


そう言われて、反射的にわたしはともだちの方を見る。お面が少しだけズレていたけど、それでもともだちの素顔が見える気配は無い。グズグズに蕩けたそこは段々とともだちのそれを受け入れ始めていて、ゆっくりと出たり入ったりを繰り返すともだちに湿っぽい溜息が漏れた。そんなわたしを見て一体何を思ったのか、ともだちがお面越しにじっとわたしを見つめながら想いを伝える。


「…すき、好きだったんだ。君の事が」


フルリと、心臓が一度大きく震えた。お面で隠れているから、その時ともだちがどんな顔をしていたのかは分からないけれど。何だか泣きそうな声をしているな、と思った。

ともだちの手が、優しく優しくわたしの頬を包み込んで、次にわたしの手を取ると貝殻繋ぎでキュ、と軽く握り締める。あんなに嫌だったのに、怖かったのに。ともだちが余りにもわたしに優しく触れるから、その度に心臓を蝕まれていくみたいにチクリと痛むのだ。きっとこうやって、時間を掛けて少しずつ、わたしはともだちの色に染められていくんだろうなぁと朧げに思った。



20190407

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