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□群青色のエレジー
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*ハンター夢主とスプリング傭兵



ぜぇはぁと弾む息がけたたましいサイレン音にかき消される。だ、ダメだっ、全然サバイバーを捕まえられないまま通電してしまった…!取り敢えず無常さんが猛威を振るってサバイバーを片っ端から仕留めている、ので、私はもう片側のゲートへと飛ぶとしよう。しゅんっと音を立てて瞬間移動してみせる。うーん、誰もいない!やってしまったなぁこれは…。あとで無常さんと反省会しなくちゃと項垂れる私の視界にサバイバーの影を見つけて顔を上げた。

少し離れた所で私の様子を伺う男の子。見覚えの無いサバイバーだなぁと思ったけど、じいっと目を凝らしてはたと気がつく。


「あっ、傭兵の!いつもフードだったから気がつかなかった」


ニコ、と微笑むと彼もおずおず微笑み返してくれたので呆気に取られた。いつもはフードで隠れていたりマジマジと見る機会が無かったから気がつかなかったけど。笑った顔が凄く穏やかで可愛いと思った。


「カッコいいね、その衣装。爽やかで春みたい」


そう褒めてみると傭兵くんは照れたように頭を掻いて。お返しというように、私のお洋服を指差してはいいね!と親指を立ててくれたのでフニャリと笑みを崩す。


「ありがとう!協力狩りだと汚れちゃうかなとも思ったんだけど、無常さんが素敵だって褒めてくれたから」


着て来ちゃった。そう続けてスカートの端を翻してみる。けれど傭兵くんは眉を下げた複雑そうな顔で私を見やるので、キョトンと小首を傾げた。


「…?どうしたの?」


ふるふると小さく首を左右へ振る傭兵くん。苦笑いで私の姿を視界へ映すと、もう一度親指を出していいね!と褒めてくれるので自然と笑みが零れる。


「えへへ…あ、そうだ、ゲート開けていいよ」


ポカンと口を開けておどおど私の事を見上げる傭兵くん。いいのか?と首を傾げる姿には愛嬌が溢れていた。


「うん、いいよ。逃してあげる。だから早くパチパチしちゃえ。無常さんにバレたら怒られちゃう」


元々私はハンター気質じゃないんだと思う。サバイバーを追いかけ回して怖がられて。椅子に括っては救助に来たサバイバーや助けられたサバイバーを殴ってまた吊り上げる。何だか弱い者イジメをしている気分で、あまり好ましく無かった。ねぇ無常さん、私たちは、分かり合う事が出来ないのかなぁ。仲良く穏やかな関係に、なれないのかなぁと。前にそう嘆いて無常さんに叱られてしまったのを思い出す。そういうのをよく思っていないハンターも多いからあまり口にしない方がいいと、そう注意を促す無常さんは私を心配してくれていた。分かってはいるけれど…。

ぱち、ぱち、と、傭兵くんの指が的確にパスワードを打ち込んでいく。ゲートが開くと同時、傭兵くんはゆっくり私の方を振り向くと、静かに膝をついて跪いた。私の目を真っ直ぐに射抜くので一瞬だけドキ、としたりして。すっと一輪の花が差し出されたのにパアッと表情が明るくなる。


「綺麗…」


くれるの?そう訊ねるとこくこく頷いてくれた傭兵くんに、お礼を述べながらお花を受け取って顔へと寄せた。ふんわりと香る甘くて優しい匂いに表情が綻ぶ。照れたようにはにかむ傭兵くんの表情も、何だか甘い気がして胸の奥が擽ったくなった。ねぇ、無常さん。サバイバー全員が害悪なんて事、無いんじゃないかなぁと私は思うのだけれど。黒無常さんが聞いたらまた、甘いなって怒られちゃうのかもしれない。


「さぁ傭兵くん、そろそろ帰らないと」


本当に無常さんに見つかっちゃう。そうイタズラに笑ってゲートまで見送ってあげる。だけどじっと名残惜しそうに私を見つめる傭兵くんに釘付けになって、私はどうしてだか視線を逸らせなくなってしまった。変なの。目が赤くなっているのは私の方なのに。傭兵くんの瞳に見つめられると私は目を逸らせなくなるし動けなくなる。それにもう少しだけ、私も傭兵くんを引き留めていたい。不覚にもそう思ってしまった。


「ね、傭兵くん。あなたのお名前は?なんて言うの?」


最後にそれだけ聞いてお別れをしよう。またねと笑って次の再開を約束しようと、そんな淡い事を考えていた私は心底甘かったのだと。これから嫌という程思い知らされる事になる。

傭兵くんの口がおもむろに開いて言葉を紡ごうとした刹那、ドンと低い発砲音が響いた。視界が弾けて鮮やかに散らばる。身体中に走り抜けた痛みに耐えきれず、呻き声を上げながら撃たれた箇所を押さえて蹲った。


「っく、ぅ…あっ」


痛い、いたいよ、何が起きたの…?ボヤける視界の中、ヨロヨロと立ち上がった所にもう一発。少し遠くから銃を撃つサバイバーの姿が見えて目を見開く。傭兵くんの張り上げた声が耳に残って。彼の伸ばされた手は私には届かなくて、


「っ、!」


避ける事も出来ず、ただ立ち尽くしていた私の腕を引っ張って庇ったのは無常さんだった。弾が当たる直前に興奮を使っていたらしい。パラパラと落ちていく煙幕の下で、彼の身体は金色に輝いていてチリ一つついていないのに流石だと思った。それに比べて私は…折角褒めてもらったお洋服はあちこち煤だらけで少しほつれているし、髪もグシャグシャだしで大分酷い有様だ。思わずしょんぼり俯いてしまうけれど、無常さんが反撃だと言わんばかりに攻撃を仕掛けるのでまた直ぐに顔を上げる。


「待って、!」


制止を掛けようとしたその時、また銃声が飛び交って目の前で弾けた。今度はしっかりと無常さんに当たってしまったらしい。苦しそうに呻き声を上げる姿にズキリとなる。


「ごめんなさい!私のせいで…大丈夫?」


サバイバーは会話をする暇すらも与えてくれない。ここまで来たら私たちの完全敗北だと悟ったらしい、無常さんから降参の提案を促されて伏し目がちになりながら頷いた。そこで漸く、私は傭兵くんに貰ったお花に恐る恐る視線を向け息を呑む。落としてしまわないようにって、ぎゅっと強く握り締めていたから。もしかすると萎れてしまったかもしれないと心配だった。…でも、


「…そん、な」


萎れるどころじゃない。花びらは全て散ってしまっていて跡形も残ってはいなかった。傭兵くんの柔らかい笑顔が脳裏を過ぎっては消えていく。率直に、ただただ悲しかった。これで分かっただろう、サバイバーとハンターの共存なんて出来ない。そう悟す無常さんの声は静かで、落ち着いていて。でも正しかった。正論の前では同意をせざるを得ないと、きちんと分かっているから…。


「…うん、そうだね。無常さんの言う通りだった」


銃で撃たれた箇所が痛い。まだじくじくと痛む。それでも最後にもう一度だけ、やっぱり名残惜しくて傭兵くんの方を一瞥してみた。仲間に連れられながら、彼もチラリと私の方を見て一瞬目が合う。あれ、可笑しいな。全身ズタボロであちこち痛いのに。でもそれ以上に胸が酷くズキズキとして、心臓を鷲掴みにされたみたくギュッと痛んで苦しいのです。ねぇ、傭兵くん。私もサバイバーだったら、きみの隣で笑い合う事が出来たのかな。



20190622

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