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□はいっ、リトライ
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「うぅ、ん…」


大きく寝返りを打って腕をめいいっぱいに広げる。そのままいつもみたく枕を抱き締めるように抱えて再び深い眠りにつこうとして、出来なかった…。ぎゅ、と抱き締めたそれがジタバタと暴れ出したせいである。そこで漸く瞼を持ち上げて気づいた。手の平に触れる感触がいつもと違う。枕カバーのひんやりとした冷たさじゃなくて何だか凄くサラサラとしていた。


「…え?」


未だ私の胸に埋まりながらモガモガとバタつくそれが枕でないのは一目瞭然。慌てて腕の力を緩めると、顔を真っ赤にしてこちらを見上げたイソップくんと目が合って頭が真っ白になった。…えっ?よく見るとイソップくん、いつものマスクをしていない。何だか新鮮だ…じゃなくて!


「なっ、えっ、どうして、イソップくんが、!」


混乱する頭で勢いよく起き上がると掛け布団がズレる。剥き出しになった肩や胸元がやけに寒く感じて不審に思いながら視線をやった。そして驚いた。私、服を着ていない…!いや服どころか下着も着けてない!なんで!?イソップくんが赤い顔のままぎこちなく私からさっと視線を逸らす。なんで、だなんて、本当は自分でも気が付いていたけど分からないフリをしていたのかもしれない。


取り敢えず布団を手繰り寄せて状況を確認する。見た感じ、イソップくんも服を着ていないように見えて頭が痛くなった。うぅ、うそだ、信じたくない。確かに昨日は飲み会が盛り上がっていつも以上に飲んだ気はするけれど、酔っ払ってテンションが上がっても意識はハッキリとしているのが私なのに。…いや、待てよ、昨日の事を思い返そうとしたら段々あの悲惨な出来事を思い出してきたぞ。私は苦めのアルコールが苦手だからいつも嗜むのは甘め且つ度数も低めの物だったのに、昨日はウィルくんやナワーブくんに流されて少しキツめのお酒を口にしたんだっけ。ショットは一口で一気に煽る物だと促され、見よう見まねに流し込んだそれに喉が焼けるみたく熱くなったのは鮮明に覚えている。そこからの事は記憶が曖昧であんまりハッキリしていないけれど、段々楽しくなってきちゃって、キャッキャとはしゃぎながら勧められるままにアルコールを煽っていた気がする…。ズキズキと鈍く響く頭痛は二日酔いの所為なのか、それとも、この目の前の状況の所為なのか。

青ざめながら固まる私にイソップくんも薄々勘付いてきたらしい。同じようにゆっくり起き上がりながら、もしかして、覚えてないんですか…?と疑問符を飛ばしてきた。目を泳がせながらこっくり、音もなく頷いた。ガーン、とあからさまにショックの色を浮かべたイソップくんが、目を瞠目させながら視線を布団の上へと落とす。あの、その、どうしてイソップくんがそんなに落ち込んでいらっしゃるの…?もしかして、酔った勢いで誑かしたのは私の方!?いや、そんなはずは…!う、自分を信じたいけど、実際私には昨夜の記憶が無いからぐうの音も出ない…っ、


「あの、イソップくん…昨日の事を聞いてもよいですか…?」


何故か敬語になりながら辿々しくイソップくんへと尋ねてみる。どこかボンヤリしとながらイソップくんは淡々と答えてくれた。どうやら私はあの後見事に酔い潰れてしまったらしい。歩くにもフラフラでどう見ても一人で部屋へ戻るなんて困難。でも私と同じようにアルコールを煽っていた残りの二人も中々な酔っ払いと化していて、私を部屋まで送る任務はイソップくんに委ねられたと。そうしてイソップくんに支えられながらフラフラふらふら、私はイソップくんの苦労も知らずにニコニコにこにこ。やっと部屋へとついて鍵を要求するイソップくんになんと、私は彼の手を取って自ら自身の胸へと押し付けたらしい…。うぅ、ウソだぁ!思わず叫びたくなった。

しかしイソップくんの手に感じたのは硬い鍵の感触。無心になりながら私の胸ポケットへと手を伸ばし、鍵を取り出し漸く室内へ。ベッドへ横にならせようとしてくれたイソップくんにイヤイヤと抱き着いてハグをした私は彼もろともベッドへ雪崩れ込み、そしてそのまま二人は…そこで言葉を止めたイソップくんの顔は赤かった。私の顔もそれなりに赤いんだと思う。熱い、恥ずかしい、今すぐ昨日の自分を殴ってやりたい衝動に駆られた。そんな、まさか私がそこまで節操なしだったなんて…なんだかショックだ。そして私の細やかな誘惑に乗ってきたイソップくんにも意外に思う。てっきり、イソップくんはそういうのに無関心な物だと思っていたのに…。どうやらそれは勝手な思い込みだったらしい。あああ、もうこれからイソップくんとどう接して行けばいいのか…分からないよ、


酷く狼狽したイソップくんが、おずおずと私を見上げて訊ねた。本当に何も覚えていないのかと。縋るような視線に申し訳なくなる。ごめんなさい、本当に何も覚えてイマセン…。イソップくんが絶望顔でフラっとよろけた。えええ、大丈夫かいイソップくん。


「…ど、どうかした?」


イソップくんの顔を覗き込むと、彼は今にも泣き出してしまいそうな顔で私を見つめ返す。思わずうっと息を呑んで背中を仰け反らせてしまった。好きだって、言ったじゃないですか、あれは嘘だったんですか。僅かに震えた声が私のハートを抉り潰す。


「ごめん、なさい、」


えっ、嘘でしょ私そんな事言ったの?イソップくんに?好きだって?はわわわ、本当にごめんなさい。イソップくんのその態度で何となく察してしまった。もしかしなくてもイソップくん私の事…?さあっと血の気が引いていく。そりゃあ、好きな子にベッドへ引き摺り込まれたら襲うわな!と、自分の無遠慮さに反省してこめかみを抑えた。悪いのは間違いなく私だ…。


「その、ごめんねイソップくん。イソップくんの気持ちを踏み躙るような事をしてしまって…本当にごめんなさい」


迷惑をお掛けしました。…あの、これからも大切な仲間として接してくれると、嬉しいデス…。深々と頭を下げてこっそりイソップくんの反応を伺う。すっかり俯いてしまったイソップくんの表情はよく見えなくて、何となく不安に駆られた。ピンと張り詰めた不穏な空気の中、取り敢えず私は服を着る為キョロキョロと辺りを見回す。イソップくんが畳んでくれたのか、私の服は下着と一緒にキッチリ揃えて置かれていて気恥ずかしくなった。こっそりシャツへと手を伸ばし手繰り寄せた所でパシリ、イソップくんに手首を取られ呆気に取られる。


「…?あの、イソップくん」


取り敢えず服を、私に服を着させて頂きたい。そう説得する前にポスン。肩をそれなりに強い力で押されてベッドへと沈み込んだのに目を見開く。私を押し倒したイソップくんの口元は緩く弧を描いていた。でも目が据わっていて怖い、怖い!ひぃ、

がくぶる震えだした私を宥めるように、イソップくんが私の頬を撫で指先で鎖骨をなぞり、そして笑った。忘れてしまったのならもう一度やり直せばいい。そしたら思い出すかもしれまんせんよ、昨日の事。そう続けたイソップくんに心臓がフルリと震えた。待ったなし、制止を求めようと開けた口を塞がれて、ぬるりと差し込まれた舌に背筋がゾクゾクとする。


「んっ、ふぅ、」


彼の膝が私の脚を割って入り、手はやわやわと私の胸を揉み込むのでそれっぽい声が出てしまう。走り抜ける快感は、確かに初めてではなく二度目のように感じて遣る瀬無くなった。



20190704

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