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□じゃあ、また
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今日のハンター誰かなぁ。レオさんはパペット出せるし分身も出せるから嫌だなぁ。ピエロさんはロケットダッシュ怖すぎるし。リッパーさんは足速い霧飛ばす透明化するの三拍子ズルイし、みちこさんはしゅんっ！て距離詰めてくるからなぁ。それもやだなぁ。タコさんクモさんの脚多いコンビは最早論外。どんとん増える触手と蜘蛛の糸ぐるぐるで各々フルボッコにされたのはまだ記憶に新しい…。
結果的に皆嫌だなという結論に到達しながらカチャカチャくるくると暗号機を回していく。うわっ、なんか今視界がパチっとして咄嗟に目を瞑ってしまったんだけどなんだったんだろう。よく見ると暗号機の近くにカメラ？のような物が置いてあって、さっきまでなかった立体スクリーンのような物が浮かび上がっていた。首を傾げながらも取り敢えず暗号解読を続ける。
白黒さんとはエンカ率低くて得体が知れないのが怖いけど、この中だったらまだ白黒さんがいい、とか思っていると近付いてくる足音とバクバク高鳴り出す心臓に慌てて暗号機弄りをやめた。うわわわ来たぁ！これは周りの障害物に身を隠すのが正解だとは分かっているのだけど、走って逃げた方向で綺麗にハンターと鉢合わせするっていう致命的なミス…。あばばばば、顔面蒼白で固まる私に近付いてくるハンターさん。見た事のないイケメンだった。身体ガチガチすぎて反応に遅れて一発殴られたのにはっとする。
に、逃げなきゃ。イケメンでもハンターはハンターだ。このままだと即づられしてしまう…！でも私チェイス超が付くほど下手っぴだから、ファーストチェイスしんどすぎて。運動神経皆無だから！後ろから確実に来てる恐怖で悪寒が止まらない中、窓枠を乗り越えようとしたら足を引っ掛けてそのまま転んだ。それで追い付かれちゃってもう一発食らった。あぶっ！打った箇所を手で押さえながら起き上がると同時、ハンターさんが真後ろに立っているのに気付いて震える。案の定風船で括り付けられてフワフワと浮く身体にううっと唇を噛んだ。皆ごめんねえええ！秒殺されちゃったよ…
「…？」
一層の事早く吊ってくれ…と思っていたのだけれど、このハンターさんなんだか様子が可笑しい。小屋の外に備え付けられている椅子に括り付けられると思いきや、そのままぷつんと糸を切られて地面に崩れ落ちる。えっ、ええ？重たい頭を抱えながら恐る恐るハンターさんを見上げた。ハンターさんは無表情のまま、本来わたしが座らされるはずだった椅子にすっと腰掛けて脚を組んだ。動作がいちいち格好いい…じゃなくて！えっ？なに、放置されてる…？出血死させるつもりなのかな…。そういえばこの前、開戦早々吊られるんじゃなくてひたすらダウン放置のサイコパスなハンターに会ったって話を風の噂で聞いたけど。彼もサイコパス系ハンターなのかなと思うとぶるりと身体が身震いした。ハンターさんが不意に私を見て目が合うのにドキッとする。こ、こわい、どうしよう…！
「…あ、あの」
「…」
「つ、吊らないのです、か？」
変にカタコトになってしまった気もするけど思い切ってそんな質問をしてみる。機嫌を損ねてしまわないようにビクビクしながら返事を待つけど、無言を貫くハンターさんに不安だけが募った。彼が一体何を考えているのか、ジリジリと出血死に近付いていく今の頭では到底分かりそうにない。足元でダウンする私を特に興味無さそうに見下ろして、彼は優雅に頬杖をつきながらクルクルと自身の横髪を弄る。
「わ、私…大体一番に見つかって殴られて捕まっちゃうんですよね…」
せめて少しでも時間稼ぎになろうと思って話しかけてみる。相変わらず無言だったけど、チラリとハンターさんが私を見やった。
気まぐれなんだろうけど、彼がこうして私に時間を掛けてくれるのは有難い。こっそり限界まで自己回復をしながらボンヤリ他の仲間の事を考える。即捕まりしたし吊られてる訳でもないし、リーダー格の子がさっきから「解読に集中して」を連打しているのできっと私に助けが来る事はないのだろう…。少し寂しい気もするけど、チーム戦だし勝てばいいのだから犠牲になってもしょうがないよね…。せめて起死回生つけておくべきだったかなぁと思いながら俯いていたら、ハンターさんに顎をくいと持ち上げられて無理やり目を合わせられたのにまた心臓が跳ねた。う、どうしよう普通に怖い！ドキドキする。でもこれはもしや、つ、続きを話せって事なのだろうか…
「この前ハスターさんとバッタリだったんですけど、暗号解読中にタコ足が急に生えてきたのにビックリして暗号機ピュンってしちゃったのに場所がバレて。あっという間にタコ足に囲まれちゃったんですよ！逃げ場もなくてすぐに捕まってヌルヌルにされちゃいました。酷いと思いませんっ？」
そう勢いよく訴えてみる。ハンターさんは少し考える素ぶりを見せて、口元に指を当てながらクスリとだけ笑った。わ、笑った！格好良さに可愛さがプラスされて見てる私までつい口元が緩んでしまう。このハンターさん、もしかすると実はめちゃくちゃいい人だったりするのかな。とか思って少しだけソワソワした矢先、ハンターさんがニコッと笑いながらその辺にあった縄で私の身体を縛り出すので笑顔のままフリーズしてしまった。んんんー？？
「あの、ハンターさん、何をして、」
ハンターさんが無表情で私の顔を一瞥して、かと思うと拾った枝で地面になにかを書き出したのでつい目で追いかける。ジョゼフ、さん？このハンターさんの名前なのかと思っておもむろに言葉にしてみると、彼は満足そうに一つ頷いた。
「それでジョゼフさん、これは一体」
硬くキツく縛られてしまったのに冷や汗だらだらにしながら戸惑っていると、ジョゼフさんが自身の携えていた剣を抜くなり一気に私を縛る縄を斬り裂きにきたのでぞぞぞーっとした。ひええ！
上手く縄だけが切れてパラパラと落ちていくそれに絶叫直前の顔で固まる。私の絶望顔が見たかっただけなのか、ジョゼフさんはどこか恍惚とした表情をしながらふぅと声を上げ剣の背中をついと指先でなぞった。初めて聞いた彼の声は思いのほか低めだった。…じゃなくて。やっぱりジョゼフさんは生粋のハンター気質だ！私をいたぶる事に快楽を覚えていらっしゃる…！がくぶる震える私に構わず、ジョゼフさんは他の失敗談は無いのかと言わんばかりに私に顔を近付ける。
「ほっ、他ですか？えっと、そうだな…あっ、最後の一人になってしまった時リッパーさんが優鬼してくれたんです！この前も2人吊った後引き分けなのにリッパーさん優鬼してくれて、暗号機回す時もゲート開ける時もずっと待っててくれて…嬉しかったなぁ」
「…」
とか、思い出してちょっと微笑みながら言うとすっとジョゼフさんが立ち上がって私に影が差す。キョトンとしてしまうと風船に括りつけられて「…！？」となった。も、もしや吊られる？と思って青ざめるとまた糸を切られてべしゃりと地面に落下して。あいたぁ！思わず悲鳴を上げてからそっとジョゼフさんを見やると少し顰めっ面をしていた。しまった、今のは失敗談じゃないから怒っちゃったのかもしれない。
「あ、あの…っ」
どうしよう、僅かに凍り付いてしまった空気の中では何を言っても不正解な気がした。言葉に詰まったままジョゼフさんに凝視されて気まずい中、ヒュンヒュンとメッセージの飛び交う音だけが響いて心臓が冷える。少しでも沈黙から逃れようとしてこっそり盗み見る。安定の解読に集中して！だったけど。ジョゼフさんも顰めっ面のまま私の通信機を指差して気になる素ぶりを見せるので、つい咄嗟に嘘をついてしまった。
「は、早く逃げて、って…」
「…」
訝しげに私を見つめる彼には、もしかすると見透かされていたのかもしれない。カコンと音が鳴って暗号機がまた１つ終わった事を知らせて残りの暗号機が最後の１つとなった時、ジョゼフさんはまた私に向き直るなり微笑ましくニコリと笑った。そ、その微笑みは、一体…！？
「あっ、」
通信機を引ったくられてジョゼフさんにより勝手にメッセージが送信されてしまう。見えた訳じゃないから憶測でしかないけど、多分彼が送ったのは「手を貸して早く」だったんだと思う。ジョゼフさんが私の手に通信機を握り直させながらじゃあまた、と口パクで言って一瞬で消えてしまった。えっ、えっ？
多分飛んだその暗号機に2人いたんだろうなと。あっという間に一撃二撃と入ってやっぱりダウン放置のまま次の人が狙われているのを確認して息を呑んだ。取り残されてポカンとしてしまったけど、ジョゼフさんも本気を出してきたんだと悟って鈍く痛む頭を抑えた。残ったもう1人は私の近くの暗号機を回していて、多分リーダー格の子なんだと思う。別の子がチェイスでジョゼフさんの気を引いている内に回復して貰わないと。じゃないと全滅させられちゃう。そう思って残った力を振り絞りながらなんとか近くまで這いずっていく。向こうもダウンしている私の存在に気付いてるはずだけど、やっぱりリーダーの中では暗号機が優先されたらしい。
カコン。
そんな音のすぐ次には警告音。ゲートが解放される。ダウンしていた子が中治りで立ち上がるけれどすぐジョゼフさんに殴られてまたダウンしてしまって。そこからは一瞬だった。引き止める持ちの彼はもう1人も一発でダウンさせて、2人を順番に椅子へと括り付け終えると瞬間移動でまた私の元へと戻ってくる。私を回復させようと近寄ってきたリーダーはほんの少しだけタイミングを見誤ってしまったのだと、私の目の前でジョゼフさんに殴られてダウンしたのを見ながら苦々しく実感した。ごめんね中治りくらいつけてくれば良かったね！逆にお前何つけてんだって怒られそうだけど。
本来なら私が座らされて飛ぶはずだった椅子にリーダーが座らされて飛んで行ってしまったのを見届けたジョゼフさんが、パンパンと手を叩いて私を風船に括り付けた。もうダメだ。今度こそ吊られちゃう。今日何度目か分からない風船と出血死の危機からぐったりして大人しくしていると、ジョゼフさんがゲートへと近付いていくのに気づいて僅かながら目を見開く。そのまま立ち止まるジョゼフさん。クルクルと回り出したので察してジタバタ暴れてみると難なく風船から抜け出せたので大きく呼吸をした。な、何とか出血死しなくてすみそう、だけど…
「…助けてくれるんですか？」
こっくり、頷いたジョゼフさんを傍目に恐る恐るゲートのパスコードを入力していく。あ、開いた。てっきり全吊りされるものだと思ったのに…。ジョゼフさんが何を考えているのかよく分からない。サイコパスハンターかと思いきや最後は優しくしてくれたし。いやでも思い返すとやっぱり行動は大分サイコパスだぞ。…それに、私だけ助かっても。そんな私の気持ちを見透かしたようにジョゼフさんがコンと爪先で私の通信機を叩いた。助けにも来ないで先に見捨てられたのは私の方だと、彼はそう言いたいのだろうか。…っていうのは都合が良すぎるよね。
「…ありがとうございます」
取り敢えずお礼を述べれば、ジョゼフさんはやっぱりニコリと笑ってゲートの奥を指差した。控えめに手を振るのが少し、いや大分可愛かったりして。じゃあ、また。ジョゼフさんの口がそう動いた気がした。
20190123
無言バージョン…。最初はガッツリ喋ってたんですけど、無言の方がいいかと思って書き直したらサイコパス感が増してしまいました…ので、次ページにおまけで喋ってる差分を置いておきます。内容自体は変わりません