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□協力狩禁止令
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あっ、ジョゼフさんだ。開始早々、置いてあるカメラの存在に気が付いたと同時に目の前がチカリと光って爆ぜた。ドキドキ心拍数が上がっているのに気が付いて、トタトタ走りながら写真世界に入り込むと見事にジョゼフさんと鉢合わせてぱあっと笑顔になる。


「わあ!ひさしぶ、りいっ、」


満面の笑みで近寄ろうとしたらいきなり剣の柄の部分で思い切り殴られて、地面にべっしゃああっと擦り付けるようにして倒れた。い、いたい。普通に痛い。一応わたしとジョゼフさんは恋仲のはずで、今日は久しぶりの再会だったのだけれど。どうして殴られたのか分からなくて咄嗟にじんじんと熱を持って痛むそこに手を当てた。予想外の事態に呆然としながら恐る恐る顔を上げると、眉間に皺を寄せてちょっと怒った様子のジョゼフさん。


「ジョゼフ、さん…?」


何で怒ってらっしゃるの?それ以上機嫌を損ねてしまわないように、おどおどと言葉を選んで発してみると、ジョゼフさんは顰めっ面のままツンっと外方を向いて歩き出してしまう。


「あっ、待って!」


わたしに背を向けてスタスタと歩いていくジョゼフさんを必死になって追い掛けるものの、ハンターの彼とサバイバーのわたしとでは歩くスピードの速さに差がありすぎてあっという間に引き離されていく。「お願い待って、ジョゼフさーんっ!」お腹の底から声を出してジョゼフさんを追い掛けていると、すぐ近くで暗号機を解読していたピアソンさんに少し怪訝そうな顔で見られた。う、そんな目で見ないでください。わたしだってこんな目立つような事本当はしたくないんですけどね!

とても遠くまで行ってしまったジョゼフさんを見失わないように、よーっく目を凝らしながら追いかけていると彼が漸く足を止めてゲート近くの椅子へと腰掛けたのが見えた。や、やっと止まってくれた!また気まぐれで歩き回られると今度こそ撒かれてしまう気がして、わたしは全速力で走って彼の元へと急いだ。長い脚を組んでじっとゲートを見据えていたジョゼフさんは、息を弾ませながらやって来たわたしに知らん振りを続ける。


「…ジョゼフさん」


そっと名前を呼んでみても目もくれず、ジョゼフさんは相変わらずぶすっとした顔で露骨にわたしから顔を逸らすだけだ。何で怒ってるんですか?は地雷すぎて流石にもう聞けない。怒ってる原因が不明なのに謝るのもNGな気がして。結局何を言えば良いのか分からずあぁだとかうぅだとか口ごもってオロオロしていると、イライラしたようにジョゼフさんがわたしに視線を向けた。


「…」


無言での威圧感が凄い。ムスッとご立腹したままジョゼフさんが懐から何枚か写真を取り出して、雑にわたしへと差し出すので慌てて受け取って目を通す。こ、これは…!協力狩りで工具箱片手に椅子を壊しまくるわたしの姿。ひくりと表情が引き攣るのが自分でも分かった。


「その…ごめんなさい」


さすがにジョゼフさんの怒ってるいる理由を察して開口一番に謝罪の言葉を口にする。最近協力狩りに誘われる事が多くてついそっちばかりに参加してしまってる自覚はあったし、そろそろ普通にランダムマッチしなくちゃなとは思っていたのだけれど。椅子を壊してハンターさん困らせるのについ楽しくなっちゃったんです。沢山の仲間たちとキャアキャアわちゃわちゃするのについハマってしまったんです。ごめんなさい。でも決してジョゼフさんの事忘れてたとかではなくて、


「…!ジョゼフ、さん、?」


くいと、ジョゼフさんがわたしの服の裾を摘んで軽く引っ張るので大人しく近づくと、そのままジョゼフさんの膝に乗せられてきゅうと力無く抱き締められた。わたしが協力狩りばっかりに参加するから、寂しかったのかな。言葉にはしないけど、ジョゼフさんの気持ちはしっかりと行動に表れているのである意味分かりやすい。ランダムマッチする度にわたしの姿を探して、他のサバイバーを追い掛けるジョゼフさんを想像して胸の奥がきゅんと軋む。


不意にジョゼフさんがわたしの手から写真をひったくった。ジョゼフさんはわたしが脱出に失敗して飛ぶ姿を見るのがあまり好きではないらしい。協力狩りだと全滅の確率が圧倒的に高くなるし、逆に中々吊ってもらえなくてイジメられてしまう事も多いから。自分は参加出来ないし恋人は悲惨な目に合っているしで、以前からわたしが協力狩りに出るのを嫌がっていたジョゼフさん。椅子に座らされられて今にも飛びそうになっているわたしの写真をビリっと破り捨てて。彼は次の写真に手を伸ばす。


エマちゃんが偶然、わたしとは逆方面の椅子を壊していてついに地下室以外の椅子を全壊しした時はちょっとテンションが上がった。やった!残りの椅子ゼロだよ皆!それはもうメチャクチャにはしゃいだ。ただそのせいで地下吊りされる人が大量発生するっていう。それはわたしも例外ではなくて、地下吊りされてしまったのを助けに来てくれたイソップさんも芋づる式にやられてしまったのは記憶に新しい。そうしてイソップさんがわたしの隣の椅子に仲良く座らされた時の写真を一枚、ジョゼフさんが腹立たし気に見つめたあとピンと指で弾いた。うーん、怒ってるなぁ。ついでにもう一枚、また別の試合で最後の1人になってしまった時、ハッチで逃してくれたリッパーさんの写真も同じように指で弾き飛ばしてはフンと鼻を鳴らす。そしてまたぎゅうと、今度はさっきよりも強めの力でわたしを抱き締めるから可愛い。胸の奥がキュンと甘く疼くからたまらない。


「ジョゼフさん可愛すぎる」


寂しがり屋でヤキモチ屋な所がとんでもなく、かわいくて愛しい。思った事をついどストレートに言葉にししまうと、ジョゼフさんがはあ?とでも言いたげに顔を上げてわたしの事を見つめた。そしてそのまま、可愛いのは君の方だとわたしの後頭部に手を回しては引き寄せ、唇にそっとキスを落とすのだ。



20190206

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