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□仮縫いの花嫁
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「わああ!かわいいっ!」
試合開始早々ドキドキしてる。ハンターが近くにいるなとか身構えていたら見事に見つかってしまって。慌てて逃げようとした所でチラリ、後ろを見て思わず足を止めてそう本音を零してしまった。いきなり振り向いて顔を見られたのに驚いたのか、みっちゃんがギョッとしながら反射的に扇子で自身の顔を隠す。
いつもの着物姿も綺麗だなとは思っていたけど、今日のみっちゃんは真っ白なウェディングドレスに身を包んでいていつも以上に綺麗だった。それだけじゃない。顔を覆っている仮面はクールなのに、大きく開いた背中はセクシーで色気が溢れていて、頭のお花がとても可愛い。つい見惚れているとさすがに痺れを切らしたのか、一発殴られて目の前がチカチカと爆ぜる。
すると、みっちゃんの雪色をしていたウェディングドレスがその一瞬で黒に変わった。驚いて軽く目を見開きながら固まってしまう。真っ黒になったドレスからは花嫁というワードが遠ざかってしまったような気すらした。でもみっちゃんが美しいという根本的な所は変わっていなくて、私は黒いドレス姿も綺麗だなぁと思った。仮面とお化粧が凄い迫力だけど。
逃げるのも忘れてついみっちゃんをじっと見つめているとドレスがまた白に戻って。みっちゃんが居心地悪そうに身を捩りながらまた扇子で顔を隠した。
「白いのも黒いのも凄く綺麗だね、みっちゃん」
私もいつかこんなウェディングドレスを着て可愛いお嫁さんになりたいなぁ。そんな事をポツリと零してみる。みっちゃんがチラリと扇子の隙間から私を覗き見た。いや、待てよ。みっちゃんスタイルがいいから似合ってるけど、私がおんなじドレスを着たらギャグにしかならないかも…と想像して少し気分が下がる。ボンキュッボン我儘ボディのみっちゃんを見て思わずため息を零した。私だったらウエストの時点できっと詰むな。
とか項垂れていた所にふふっ、と。みっちゃんが小さく笑った気がしてすぐに顔を上げた。一瞬だけ見えたみっちゃんの微笑みが愛らしくてまた目を奪われる。わ、可愛い。これは男じゃなくても惚れちゃうなぁ。
「あっ!みっちゃん待って!」
私を吊る事は止めにしたのか、スタスタとどこかへ行こうとするみっちゃんを大慌てで追い掛けるとまた殴られて軽く吹っ飛んだ。ちょ、みっちゃん、本気で殴ったね。さすがに鬱陶しがられてしまっただろうか。頭を抱えながら上半身を起こすと、風船に括られてフワフワ浮きながら暗号機の元へと運ばれていく。風船の糸を切って私を自由にするなり、みっちゃんはガツンと目の前の暗号機を殴ったので、私は言われた通り暗号解読をする事にした。
ピコピコと鳴り始める暗号機を傍目に、私はこっそりとすぐ側に立つみっちゃんを一瞥する。黒のドレスを身に纏ったみっちゃんは、綺麗だけどどこか哀愁を帯びていて、何だか見ているだけで胸の奥が切なくなった。みっちゃんも大切な誰かの花嫁になりたかったのかな。そんな妄想に耽っていると思わず手元が狂ってバチン、指先に電気が走った。咄嗟に手を離してしまうと、怒ったようにみっちゃんがまた暗号機を殴る。
「ご、ごめんね。みっちゃんがあまりにも綺麗だからつい見惚れちゃって」
さすがにくどかったかな。呆れられてしまっただろうか。慌てて暗号機の解読に戻りながらもチラリ、懲りずにみっちゃんの方を見るとちょっと悲しそうに笑うので目が逸らせなくなる。
「みっちゃん…?」
しゅんっ、て。一瞬にしてみっちゃんが目の前から消えて。一気に大人しくなった心音に物寂しさすら感じた。解読に集中しろって事なんだろうなとは思うけど、もう少しみっちゃんと一緒にいたかったと告げたら、彼女はまた怒ってしまうだろうか。今度こそ慎重に暗号機を回しながら、私はもう一度花嫁姿のみっちゃんを思い出していた。
20190212