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□セクハラ娘とハンター達
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セクハラの隙を与えない道化師


ロケットを組み立てている無防備な後ろ姿にこっそり近付いて、わっ!と飛び付くとその大きな身体をびくりと揺らして驚くから笑ってしまう。そのまま首をキョロキョロ、みぎーひだりーと大きく身体を捻りながら後ろを向こうとするので、振り落とされないように腕を前いっぱいへ伸ばして必死にしがみついた。けれどそんな抵抗も虚しく、下へ下へと少しずつずり落ちていく身体と一緒にジョーカーのシャツも後ろへ後ろへと引っ張られて、彼が苦しそうに声を上げたので仕方なく離れてあげる。ギィッ!て独特のしゃがれた声。相変わらず監視者を引っこ抜いた時みたいな声をしてるなぁと思った。それを言うとまた全然似てないとかいってわざわざ監視者植えて目の前で抜いてみろって言い出すジョーカーを想定したので、わたしは黙っておく事を決めた。

ジョーカーは軽く噎せながらわたしの姿を目に入れるなり、飛び出たシャツをしまうのも忘れて衝動的にロケットを振りかざして殴ろうとするので咄嗟に避ける。


「うわっ、危ないなぁ!」


あーっ!とか言ってる間にももう一発…!でも攻撃を避けるのは得意だからそんな簡単には当たらないよってもうずっと言ってるのに。ジョーカーはそれでもロケットをぶん回すから学習しない。レオですらわたしの姿をチラリとでも見たらすぐ逆方向に逃げるんだけど。ジョーカーはそうやってぇ、すーぐロケット組み立ててわたしを殴ろうとするぅ。でも全然当たらないからイライラして意地でも当てたくなるんだろうなと、ジョーカーの気持ちを察しながら中途半端に出てるシャツを全出ししてあげた。

流石に驚いたのか、ぎょっとした様子で固まるジョーカーの服の中に手を滑り込ませてそのまま物色すると、はっと我に返った顔でまたわたしを殴ろうとする。もちろん上手く躱すけど。そのロケットを見事自分の脚にぶつけて悲鳴をあげるから本当にジョーカーはおバカさんだ。


「も〜、何してるの?」


それは!こっちの台詞だ!とでも言いたげに、ジョーカーが息を荒くしながらわたしに顔を近づけてくるので反射的に仰け反る。わお、迫力が。よっぽど痛かったのか、涙目になってるのがちょっと怖い。でもジョーカーもたまには知るべきなんだよ。己の攻撃力がいかに重くて痛いのかをさ。これで毎回殴られてるサバイバーの気持ちが少しは分かったでしょ、次からはもう少し加減を、「っわあ!油断も隙もないな!」とか言ってたらまーたすぐロケットぶん回すぅ。そして当たらない攻撃にまたギャアギャアと不満の声を上げるのだ。


「…ねぇねぇ、暗号機あっという間に残り1つだけど、いいの?」


見ての通り、ジョーカーはいつもわたしに付きっ切りだから暗号解読はガンガン進むし、逆にわたしがセクハラをする間も無くゲームが終了に向かって進んでいく。元々セクハラをする理由も時間稼ぎだからわたしは別にいいんだけど。ジョーカーは残りの暗号機の数を確認すると露骨に驚愕の表情を浮かべて歯を食いしばるのであーはいはいと察する。えー、でも…気付いてなかっただけ?そんなまさか、そこまでバカなやつではないと思うけど…


「あっ!」


疑惑の念を抱えているとジョーカーがロケットを構えてダッシュする素振りを見せるので思わず慌てる。えっ、ここでロケットダッシュ!?まずい、私の足じゃ間に合わない、

咄嗟にジョーカーを引き止めようと手を伸ばした瞬間、ジョーカーはわたしの方をチラリと見やって、そのままニィっと口端を釣り上げて笑った。えっ、?その意味深な笑みの意味に気付くと同時にジョーカーのロケットが目の前に来ていて頭がズキリと痛む。硬い地面に尻餅をついて、未だズキズキと痛みを主張するそこに自然と手を当てて固まった。ちょ、うわ、うわぁ!


「っ、悔しい!」


完全に不意打ちくらった。油断してジョーカーに一発貰うとかホント…本当に、悔しいっ。目の前でお腹を抱えながら大爆笑してるいるのがまた憎たらしくて腹が立つ。


「…いや、分かんないよ?マグレの一発かもしれない」


そう静かに言葉を散らすとピクリ、ジョーカーが反応を見せて無表情でわたしを見つめた。ジョーカーは単純だから。煽り文句の一つでも言えばすぐにロケットを振るう。


「次はもう当たらないからねっ!今日も最後まで生き抜いて全員で脱出しちゃうんだから」


そうやって戦線布告をすれば秒でロケットが飛んでくる。もしかすると、ジョーカーからしたらゲームの勝敗よりもわたしにダメージを与えられるかの方が大切で。仮に他のサバイバーが目の前にいたとしても目移りなんてせずわたしだけを見て攻撃してくるのかもしれない。そう思うと少しだけ嬉しく感じて僅かに口元を緩めてしまった。セクハラなんて手を使わなくてもジョーカーはわたしに付きまとってくれるし付き合ってくれる。そんな関係性がなんとなくわたしも好きだったんだと思う。面と向かって対峙してみると、ジョーカーも口角を上げて心から笑っているように見えた。




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