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□セクハラ娘とハンター達
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結魂者へのセクハラの仕方が分からない
マップ内のどこかにいるヘレナちゃんがトンと杖を叩く。見えたシルエットに思わずうわと零してしまったのは、のしのしと軽快に歩き回るヴィオレッタ嬢が中々の強敵であるからだ。だってどこをどうセクハラしたらいいのかがわたしには全く分からないもの!近付こうとすると直ぐに糸を吐かれてしまうし。至近距離だと見事にネバネバの糸が絡まって確実なダメージへと繋がってしまうから難しい。
だけどめげちゃ駄目だ!少しでもセクハラのイメージを植え付けて爪痕を残そうと、最近は試行錯誤を繰り返して色々と頑張っている。この前はその辺に張り巡らせられた蜘蛛の巣に突っ込みまくってみた。更にヴィオレッタから飛んできた蜘蛛の糸にも引っかかって派手に転んだけど、敢えてニコニコの笑顔で彼女に笑いかけてみる。
「ねぇねぇヴィオレッタちゃんその糸ってどこから出してるの?わたしもっとヴィオレッタちゃんの糸を吐く瞬間見てみたいな。ヴィオレッタちゃんになら糸塗れにされてもいい!」
とか、お茶目な感じで言ってみたら普通に殴られた。何こいつ気持ち悪いってオーラが全身から滲み出ている。ヴィオレッタは表情が読みづらいけど、あれは間違いなくドン引きしていた…。
そして気味悪がられながらその場で糸グルされるっていう一番最悪のパターン。確かにもっと糸塗れにしてとは言ったけど!あの時の、身体中の水分をじわじわと奪われてカラカラになりながら荘園に戻される辛さを、わたしは未だに忘れられないでいる。もうあんな思いはしたくないし仲間にもさせたくない。でもわたしではヴィオレッタに効くセクハラの仕方が分からないんだよ。
「ねぇカートさん、ヴィオレッタ嬢の萌えポイントってどこだと思う」
隣で暗号解読をしていたカートさんに思い切ってそう訊ねてみる。バチンと彼の指先で電気が弾けてカートさんが痛そうに手を振った。そして本で小さくなって隠れたカートさんは、ハンターの気配が無い事を確かめるとまたゆっくり元に戻って暗号機弄りを再開し出す。
「ごめんね動揺させて」
暗号機を触りながら静かに謝ると、カートさんもただ黙って首を横へ振って許してくれた。ヴィオレッタ嬢が相手の時は負けの確率の方が高くなる。カートさんもわたしに少しでも協力してくれようと必死にヴィオレッタのセクハラ出来そうな箇所を考えてくるているようだった。でもカートさんにとっても難しい課題だっのかもしれない。バチン。もう一度感電した手を痛そうに振って、またもやカートさんが本で縮こまりながら物陰に隠れる。
「ハンターが来てもわたしが守ってあげるから落ち着いてカートさん!」
だからまずは解読に集中しよ!そう促すと今度はカートさんが申し訳なさそうにしながら頭を下げるのでわたしも笑って許してあげる。「でもカートさんは一回隠れた方がいいかも」2回連続の感電は流石に危ないかもしれないと警戒して正解だった。ヘレナちゃんの杖トンでヴィオレッタ嬢が近付いて来るのが見えて、わたしも慌てて離れようとしたら先ほどのカートさんと同じく感電して小さく悲鳴をあげる。いったぁ!やばい、3回目の感電は本気でまずい。
「…わたしがヴィオレッタ嬢を引きつけるから、心音がしなくなったらカートさんはここで解読の続きしてね」
徐々に上がっていく心拍数を気にしながらカートさんにコッソリ耳打ちしておく。カートさんがゴクリと唾を飲んで、ぎゅ、と咄嗟にわたしの手を掴むのでつい彼の顔を見やった。カートさん?心配そうな面持ちでふるふると顔を横へ降るカートさんに、わたしはなるべく柔らかい表情で笑い掛ける。
「大丈夫だよ、心配しないで」
カートさんの手を振り切って、わざとヴィオレッタに見える位置へと飛び出した。早速わたしの姿を見つけて飛んできた蜘蛛の糸を、ギリギリの所で躱してすぐに板を倒してしまう。わたしの武器は俊敏な動きでハンターの攻撃を躱せる事。素早さを封じられるのだけは避けたいと思って、今日はとことん蜘蛛の糸に気を付けようと作戦を練った。いやぁ、カートさんにはつい強がってあんなカッコいい事を言ったけど…実は内心凄く不安だったりする。普通に怖い。でもそれはヴィオレッタも同じのようで、前回のわたしの奇怪な動きと発言からかなりわたしを警戒しているように見えた。ジリジリと、お互いに無言無表情での読み合いが始まる。
取り敢えずお尻でも触ってみればいいのかな!でもお触りした瞬間激怒されて殴られるのか目に見えている…。手脚合わせて8本もあるしなぁ。うまく避けられるといいんだけど。一つ呼吸を置いて無謀にもヴィオレッタに真っ向勝負を仕掛ける。一発食らうのは想定内だ。
「ヴィオレッタちゃん!ひっ、さ、しーぶり!」
得意の素早さをいかしながら、ヴィオレッタ嬢の背後へと回って予定通り彼女のお尻へと触れてみた。ヴィオレッタがゾゾゾと大きく身体を震わせてもう一度わたしを殴ろうとするので上手く躱す。あっ、ぶな、今の結構ギリギリ。そしてヴィオレッタ嬢意外と柔らかくて触り心地がいい、かもしれない…
「ねぇねぇヴィオレッタちゃん」
連続で攻撃を振ってくるヴィオレッタをギリギリの所で回避しながら彼女の名前を呼ぶ。少しヴィオレッタの顔色が悪いように見えたから、もしかすると既に嫌な予感を感じでいたのかもしれない。
「この布の下ってどうなってるの?」
言いながらヒラっとヴィオレッタ嬢の身体を覆う布を翻してみる。ううん、残念ながらあんまりよく見えなかったな。ギャッ!とヴィオレッタの恥じらうような声が聞こえて、さすがにわたしと距離を取りたくなったらしい。わたしから離れようとし出したのですかさず抱き着く。 いやあああ、目の前で大っきい糸巻きがクルクル動いてるの大分怖いなぁ。でも、わたしもやっといつもの調子が出てきたかもしれない。やっぱり蜘蛛の糸さえ喰らわなければ攻撃は割と避けれるし…いける。
「ねぇねぇ、ヴィオレッタちゃんってパンツ穿いてるの?」
単なる好奇心っていうのもあったんだけど、当然ながらヴィオレッタちゃんがその質問に答えてくれる訳もなく。怒ったように身体を揺さぶってわたしを振り落そうとするので必死になってしがみ付く。この位置なら蜘蛛の糸も当たらないし、ヴィオレッタは半ばヤケになっているようだった。ちょっとどストレート過ぎたかな。これは下手すると嫌われてしまうレベル…。いや、寧ろ既に殆ど嫌われてるだろうけど。
「っ…!?ちょ、ちょっちょっ!まっ、」
すると何を思ったのか、突如ズンズン後ろ向きで歩き始めたヴィオレッタに混乱して挙動不審になる。なんだどうした?けれどそんな疑問もすぐぶっ飛ぶ事になる。ゴンって音がしたかと思うと後頭部から鈍い痛みがじんわりと広がって。「あいたぁ!」涙目になりながらヴィオレッタから剥がれ落ちた。くぅ、壁にわたしを擦り付けてずり落とすとは、やるなヴィオレッタ嬢。
ヴィオレッタの背後からゴゴゴゴって凄まじいオーラが見える…。大変だ、壁とヴィオレッタに挟まれて逃げ場がない。これは詰んだ、絶対殴られる。今日はここまでだなぁ。腹を括ってまじまじヴィオレッタの顔を見つめると、彼女の顔がいつもと違う事に気が付いてあれとなった。
「ヴィオレッタ、今日はいつもと違うんだね」
鳥みたいな表情の読めない仮面じゃない。今日のは目がついていて視線が合うから、その分いつもよりも表情が柔らかく見える気がした。そっか、殴られるかセクハラ出来るかの瀬戸際だったから全然気付かなかったな。衣装も明るい色が使われていて、ガラリと変わった印象が素直にいいなと思えた。
「似合ってるね、かわいい」
まさか褒められるとは思っていなかったのか。ヴィオレッタがピクっと軽く反応を見せて。どこかソワソワしながら両手を頬へ添えると、一瞬わたしから視線を逸らした。
「…えっ、もしかして照れてる?」
ついそう言葉を零すと顔面に糸を吐かれた。うわぁ!と声を上げてネバネバの糸を拭おうとすると、そのまま容赦のない一撃を食らってダウンする。照れ隠しもあったのだろうか。ぜぇぜぇと荒くなっている呼吸を落ち着かせようとする姿が、本当に可愛く見えてやっぱりヴィオレッタ嬢も女の子なんだなとしみじみ思った。