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□朝チュン未遂により
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協力狩りで珍しく勝利を得たので、試合後にみんなで打ち上げをする事になった。乾杯と寄せ合ったグラスが子気味いい音を立てて離れていくのが気持ちいい。そっとグラスを傾けて口に含んだアルコールは甘くてついニコニコとしてしまう。んー、おいしい!気持ちよく勝てた後のお酒だいうのもあって、疲れた身体にじんわりと染み込んでいく感覚が爽快だった。


「やっぱり勝った後のお酒は格別だね!」


最初はゲームの話でみんなで盛り上がっていたのが、段々と各々他愛のない世間話での盛り上がりへと変わっていく。それは私も例外ではなくて、エミリーやウィラと恋愛話に花を咲かせながらキャッキャと盛り上がっていた。ここまでくるといつもの女子会のノリみたいな物があって、私も少し飲むペースが上がっていたのかもしれない。打ち上げ中盤にはもうベロンベロンに酔い始めていた。


「えへへ〜、エマは可愛いねぇ」


エマの隣に座ってよしよしと頭を撫でると照れたようにはにかむのでやっぱり凄く可愛い。ほんっとうに可愛い〜。そのまま勢いで頬に軽くキスを落とすと、男性陣の誰かが短く声を上げたのが聞こえてキョロキョロとする。やがて頬をそれなりに赤くしたナワーブと目が合って、今の声はナワーブのかと認識すると同時、俺にも俺にもと言いたげに自身の頬を指差すのでケタケタ笑いながら「ダメ〜!」と言ってやった。


「これはエマだけの特権なの!ね〜っ?」


一緒になって「ね〜」をしてくれるエマが可愛すぎて辛い。えへへへ〜とだらしなく笑いながらアルコールを煽ると、エミリーに飲みすぎじゃない?と注意を受けてふにゃりと表情を崩した。


「だいじょーぶだよぉ、テンションは高いけどまだまだ飲めるよぉ」


言いながら今度はエミリーにベタベタぎゅうぎゅう。僅かに香る消毒液にゲームでの事を思い出して、なぜか突然泣きそうになった。


「エミリー好きぃ、いつも私の治療してくれてありがとおお」


今日だってエミリーが私を救助して怪我を治してくれてなかったら危なかったもの!そう抱き着くとはいはいだなんて流されてしまってまた笑う。やだぁ、素っ気ないなぁエミリーせんせぇ。ブドウを一粒口に放ってもぐもぐ。甘くて酸っぱくてジューシーだ。おいしい。またついふにゃあと幸せそうに微笑んでしまう。


「ほら、エミリーもあーん。おいしいよ」


ブドウをエミリーの口元へ持っていくと素直にあーんされてくれるので嬉しくなった。おいしいわねと微笑んだ表情に益々口角がゆるゆると緩んで止まらない。なぁ、こいつって酔うといつもこんな感じなのか?という声が何処からか聞こえてきて、酔うと大体こんな感じねとウィラが答えていた。そう、わたしは酔うと常にニコニコ。そして近場の人にイチャイチャウザ絡みし出すという習性がある…。まぁ、それも女子にしかしないけど。アルコールに酔ってはいてもその辺の理性はきちんと残っているのがわたしなのだ。だから間違っても男性陣と何か過ちがなんて事態にはならない。うん、ならない。言い切れる。



「…はっ!」


それがどうして、私は見知らぬ誰かの部屋の誰かのベッドの上で寝ているのか…。勢いよく起き上がったせいか、まだアルコールの残る頭がクラリとしてしんどかったので、一度ベッドへとカムバックする事にした。あれ、えっ、何処だろうここは。落ち着こう、そして思い出そう。

確か、あの後私はウィラに膝枕をして貰いながらいい匂いする〜!と腰の辺りに抱き着いて、ウィラにはもうと呆れられながらも優しい手付きで頭を撫でられていた。そしてウトウト微睡んでいて何なら少しの間眠っていた、気がする…。そうして暫くすると肩をトントン叩かれて、そろそろ帰りましょうかと促されて、うんと頷いて帰ろうとした所で…そうだそうだ、私を呼び止めた人物がいたんだ。



「…ノートンくん、?」


珍しくノートンくんに声を掛けられて、もう少しだけ一緒に飲まないかとお誘いされたのにほんの少し迷う。ノートンくんとは普段あまり接する機会がなかったし、折角誘ってくれたのにと思うと断る事が出来なかったのだ。うん、いいよと笑みを零して、私はノートンくんの隣へと残る。私の事を心配してくれたエミリーも一緒に残ると言ってくれたけど、エミリーは明日も朝早くからゲームの予約が入っていたのを知っていた為大丈夫と笑って帰らせた。それで、その後は他愛のない会話をした所まで覚えてる。さっきまで女子と戯れていた時とは一変、大人しい私の事を意外そうな目でノートンくんが見ていたっけ。

そうして普段のゲームでの事とか、私生活の事とか、お互いの苦労を話して聞いてちょこちょこお酒を煽る。チェイスも救助もお上手なノートンくん。時たまハンターに執拗にケバブされるよと苦笑うので、ノートンくんも大変だなぁと、二人で静かに飲んでいたはずだ。それで…はっ、そうだ!珍しくウィリアムが飲み過ぎて気持ち悪くなっちゃったから、それを介抱するのにノートンくんが呼ばれて私は待つように言われたので大人しく待ってたら眠くなっちゃってそのまま…ええっ、じゃあここノートンくんの部屋なの?あっ、えっ、いやわかんないけど!そういえば半分意識が落ちてる中何か声を掛けられて無理やり立たされたような気が…しなくもない、


状況が纏まってきた所で大きく深呼吸をして、よしとゆっくりノロノロ起き上がった。今度はクラリとよろめかなかったのでホッとする。よく見るとテーブルの上にはノートンくんの必須アイテムである磁石が置いてあって、やっぱりここは彼の部屋なんだと確信した。でもノートンくんは寝室にいないし、私の衣服も乱れる事なくきちっとしているし…。ノートンくんに何か疚しい気持ちがあるとは思えなかった。寧ろ、途中で寝てしまった私を本当は部屋まで送って行きたかったのだけれど、私が熟睡していて鍵を取り出せなかったから仕方なくここに連れて来たのかもしれない。と想像して一人うんうん頷く。そうだよ、きっとそう。

取り敢えず私は寝室から出てノートンくんにお礼と謝罪を伝えて部屋に帰ろう。そして寝よう、眠い。そう、ゆっくりベッドから立ち上がって寝室を出ようとしたタイミングで突然ドアが開いたので、つい驚いて飛び上がる。「ひゃあああっ、ビックリしたぁ!」その拍子に足がもつれてべシャア!と大胆にも床へとダイブした。い、痛い。でもノートンくんは私の大きな声にビックリしたようで、目をパチクリとさせながらすっ転んだ私を心配そうに見つめている。アルコールが、今のでまた頭に回ってきたらしい。クラクラのフラフラでやっぱりしんどくなっていると、ノートンくんが手を引いて起き上がらせてくれた。ノートンくんも少なからずアルコールが入っているはずなのに、それを微塵も感じさせない力で引っ張られたのにドキッとする。ノートンくんてば意外と力あるよなぁ。


「…ごめんね、ありがとう」


よく見るとシャワーを浴びてきたのか、ノートンくんはシャツ一枚にラフなズボン姿で、髪が少し濡れていた。よろよろ立ち上がるものの、もう少し休んでいた方がいいと促されて結局ベッドへと逆戻りしてしまう。ど、どうしよう…。流されるままベッドへと横になってしまった…。私の横ではノートンくんが腰掛けていて、状況的にはあまり宜しくない。私の頭が勝手に男女のアレソレを想像して顔にでる。元々アルコールで赤かった顔が更に赤らんで、それに気付いたノートンくんが私の顔を覗き込んでくるので堪らない。私の心配をして声を掛けてくれるノートンくん。有難いけど、私的には君との距離の方が大丈夫じゃないです、


「うん、大丈夫、」


喉が異様にカラカラで少し掠れた声が出た。もしかして苦しいのでは?と、そう解釈したらしいノートンくんが、ちょっとごめんと言いながら私のブラウスのボタンへと手を掛けるのでギョッとしてしまう。「あのっ、ちょ、」プツンプツン。ボタンが二個程外されたのに驚いたものの、確かに呼吸はし易くなった気がしなくもない。けれどノートンくんが私の頭の下へと腕を差し込むなり、ぐっと軽く起き上がらせるので目を見開く。浮いた背中に空いてる方の手が潜り込んできて、なんとブラウス越しにプツン、器用にもブラのホックを外されたのに混乱して唖然となった。んんん???間違いなく今私の頭上には大量のハテナマークが浮かび上がっている事だろう。カンカンカン、と、頭の中で鳴り響く危険信号と連動して心臓の鼓動も早鐘を打ち出す。

真っ赤な顔でピシリと固まってしまった私の事を、ノートンくんが悠々と見下ろしながらクスリと一つ笑った。ごめん、でも少しは楽になっただろう?と訊ねるノートンくんとの距離は依然と近い。ぎゅっと握り締めた両手を胸の前に置いて小さく縮こまるように肩を竦めた。視線を逸らせずノートンくんの下で大人しくしているとパタリ、彼の髪から滴る雫がわたしの首筋に落ちてきて、つい身動ぎしてしまう。ノートンくんの口角がゆうるりと緩んで、そっとした手付きで私の頬を撫ぜた。


「大丈夫、何もしないさ」


今のところはね。そう、部屋を出て行ってしまったノートンくんにワンテンポ遅れて心臓がドキドキと跳ね回る。な、なんだ、今のは…。からかわれただけ…?ていうか、えっ、えっ?私はこの後どうしたらいいの。部屋に戻ろうかと考えてコッソリ寝室のドアを開けて様子を伺ってみる。リビングのソファで寝る支度をしているノートンくんを見ていたら出て行くに出て行けなくなった。えええ、本当に…?でも正直、私とノートンくんの部屋は結構離れていて体力的にも考えるだけでしんどそうで…私は、私は…!結局ノートンくんのベッドで就寝してしまった…。襲いかかる眠気と疲れには勝てなかったのだ。

ノートンくんはノートンくんでリビングのソファで眠ってくれたし、勿論二人の間には何も無かった。朝早くに起きて変な噂になる前に自室へ戻ろう。そう思って寝室を出ると、欠伸を咬み殺すノートンくんにもう帰るのかと聞かれて勢いよく頷いた。


「帰る!帰ります!昨日は迷惑掛けちゃってごめんね、じゃ!」


しっかり警戒してノートンくんの部屋を出た、つもりだった…。けれど最悪な事にピアソンさんやライリーさんと鉢合わせてしまって。しっかり口止めをしたはずなのにその噂は一気に屋敷中へと広まってしまったので頭を抱えて項垂れた。ぜえっ、たいにピアソンさんでしょ!本気で私許さないからな!?

部屋に泊まっていって朝チュンまでしたのに?何も無かったはずがないだろう!という周りのツッコミたい気持ちは分かるけれど。本当に何も無かったんだよ信じて!そう訴えた所で無駄だった。エミリーにはやっぱり昨日無理してでも側に居れば良かったわと悲しそうな顔で言われたのでいよいよ泣きたくなる。私たちは潔白です…!



20190704

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