短編

□恥ずかしいからもう少し
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 言わないと、伝わらない。
 それは、分かっているけれど。
 言えないよねぇ、「好きです」なんか。
 だってさ。
 それで拒絶されたら、色々悲しいもん。

「好きだぜ」

 あぁ、何か幻聴が聞こえてきたやぁ…
 いや、そりゃさぁ、好きな人から「好き」って言ってもらうのが一番だけど、妄想はいけないよ、自分。
 痛いし。いろいろと。

「おーい、聞いてっかぁ?」

「ほわっ!?」

 いきなり山本の顔が、視界一杯に映って、思わず変な声を出す。
 え、ちょ、え?

「ほ、本物……?」

「本物じゃなきゃ、なんなんだ?」

 怒ってるというよりは、純粋な知的好奇心。
 ちょっと可愛いかも、とか思うけど、その前に。
 好きっていいました?
 この人。

「なぁ、返事は?」

 いや、返事っていや、まって!
 まてまてまて!
 え、なに?
 本気で告白されたの!?私!?

「え、えと、え?
 ゴメン、もっかい言って?」

「だからさ。
 オレ、お前のこと、好きだぜ」

 やっぱり、好きって、loveの方の好きだよね?likeじゃなくて。
 えと……
 あの、山本が?
 野球部エースで、女子にモテモテの?
 何より、私が好きな?

「う、嬉しいです……」

「はは!なんだその返事!」

 やっぱりおもしれぇ奴、と笑う山本。
 あれ、そんなにおかしいかな?
 でも、さ。
 仕方ないよ。
 言えないもん、好きだなんて。

「ま、お前から好きって聞くまで、頑張るわ」

 そう言う山本君に、今すぐ好きって言って、飛びつきたくなった。
 でも、やっぱりそれは出来なくて。
 ただただ、顔を赤くして俯くしかなかった。
 もう少し、時間を下さい。






恥ずかしいからもう少し

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