短編

□思い返せば
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 それは奇跡的な出会いだった。
 私は転校初日とありいつもより一時間早く起きた。
 余裕で用意を終わらせて、朝のコーヒーなんてしゃれこんでいたわけだ。
「あら、あんた学校まだ行かなくていいの?」
「やだなママン、まだ7時だよ?」
「は?もう8時よ」
 ……おっと?
 いやそんなはずは。
 だって時計は正しく7時5分を指しているじゃないか。
 私の部屋の目覚まし時計だって一時間前にちゃんと鳴ったし。
「言ってなかったっけ、うちの時計なんでか全部一時間ずれてるのよ」
 ほら、と母親が指差したテレビには8時5分の文字。
 腕時計を見ればデジタルで7時5分を表示。
 ……。
「ぎゃあああああああ!
 いってきますぅぅぅぅうううう!」
 唸れオレの両足ぃ!
 とかアホなこと心の中で絶叫しながら全力疾走。
 やばいやばいやばい!
 先生が言ってたじゃないか!
 思い出すのは学校の下見に来たときのこと。
『前の学校では遅刻したことは?』
『あ、ないです大丈夫です』
『ならいいんだ、いやぁ、うちは風紀委員……あ、いや、なんでもない』
『あ、もしかして校則とか厳しい感じですか?』
『うん、まぁ、そんなかんじかな』
 って言ってたじゃんかぁぁぁああああ!
 だから朝弱いのに一時間早く目覚ましセットしたってのに!
 時計のばか!
 確か校門閉まるのは8時30分。
 家から学校まで全力疾走で……15分くらい!?
 あぁくそ、腕時計チラ見したら17分だし!
 あと13分!間に合……ったぁ!

 もう一度言う。
 それは奇跡的な出会いだった。

 なぜか30分が来ていないのにリーゼントに学ラン(それも長ランとかいうやつ)の軍団が校門を閉めようとしていた。
 滑り込むには色々危ない。
 挟まれても大変だ。
 だから言い訳するとしたら咄嗟だったんだ。
 だんっ!(私が力強く跳躍した音)
 とん(スーパーマンのごとく片手を伸ばして飛んでいた手を校門についた音)
 くるん(校門についた手を軸に一回転した音)
 すとん(両手を上げて十点満点の着地を決めた音)
「せぇぇふ!」
「色々アウトだよ」
「どうわぁ!」
 背中を後ろから蹴られてドヤ顔で顔面ダイブ。
 どこにって?地面にだよ!聞くな!
 いってぇ、とか呟きながら背後を仰ぎ見る。
 そこにいたのは黒目黒髪の、よく言えばクールな美形、悪く言えばかっこいいだけで愛想のかけらもなさそうな男子がいた。
 なんだこいつ。
 女の子に手を上げるなって教わらなかったのか?
 言っとくけど足だから関係ねーしは通用しないからな。
「まさかスカートの中に何も履かずに一回転着地決める女子がいるなんてね」
「は?パンツ履いてますー」
「……」
 あれ、どうしよう、すごい軽蔑の眼差しだ。
 これなんていうフラグ?
「君面白いね」
「は?」
「委員長!?」
 私の素っ頓狂な声に被せてきたのは、やっぱりリーゼントに学ランの男子。
 どうでもいいけどここにいる全員校則違反じゃないか?
 うちの学校ブレザーって聞いたんだけど。
 てかこのリーゼント一際でかいな、オイ。
「だ、ダメですよ委員長、これ一応人間ですよ!?
 女子のくせに下着が見えてるの気にしないし、風紀委員で飼うのは反対です!」
「オイ待てやリーゼント。
 誰が一応人間だコラ。一応も何も人間だっつの。
 つーか飼うってなんだよ飼うって。愛玩動物か私は」
 睨んで見せれば「可愛げもないじゃないですか!」とのお言葉。
 こいつぼこる!絶対後で人気のないとこに呼び出す!
 すると委員長とか呼ばれてる男子がすっと目を細めた。
 なんでもいいけど目つき悪いなオイ。
「草壁、僕に意見していいのは僕だけだ」
 え、この子どうしたの?
 何この俺様感やだこわい。
 てかチャイム鳴ったがな。
 どうしてくれるんだ。
 今日はクラスで自己紹介してもらうからね☆とか聞いてたんだけど。
 これ担任困るじゃん。
 絶対「えーっと今日は転校生が居る……はず、なんだけど、その」とかなるじゃん。
「それとそこの女子」
「へ、あ、はい?」
「咬み殺されたくなかったら君、今日から僕を楽しませに毎日休み時間応接室に来ること。
 いいね」
「……」
 き、きたぁぁぁぁぁぁああああ!
 中二病患者きましたぁぁああ!
 咬み殺すってなんだ咬み殺すって!
 意味が分からんぞオイ!
 お前のそのお口に生えてる歯は牙じゃねぇからな!?
「じゃあね」
 いやじゃあねじゃねぇし!
 ってまじで置いてくなよ!
 去っていく学ランに何も声をかけることができず。
 とりあえず遅刻でもなんでもいいから教室に行くことを決意。
 なんで遅れたんだと聞かれることもなく、青い顔で出迎えられて。
 お昼はなぜかチラ見しながらコソコソ言われながらのお弁当。
 それもぼっち飯。
 五時間目リーゼント軍団に拉致られて。
 たどり着いた応接室で女子への扱いとは思えぬほどぼこられて。
 思わず「この中二病患者が!」と叫んでまたぼこられた六時間目。
 何とか生き延びた放課後、赤ん坊に「雲雀にぼこられて生きてるとは……ファミリーに来い」とよくわからん勧誘を受ける。
 そんな未来は、もう少し先のお話。


それは奇跡的に最悪な出会い方

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