短編

□処刑台で微笑む
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「なんで……っ」
 武の苦しげな顔に私は笑った。
 ばかなひと。
 それが私の彼に抱く一貫したイメージ。
「さあ、処刑の時間よ」


 きっかけはと問われればそれは些細なことだった。
 ボンゴレというマフィアを嫌ったこともない。
 幹部達はよくしてくれたし、何より私は武が好きだった。
 それでも私は彼らを裏切った。
 理由は簡単であり難関であり単純であり複雑で。
 私は彼らを愛おしく思う反面憎々しく思っていたのだ。
 平和な日本で安穏と育った彼ら。
 それだけではボンゴレを纏められないのは知っている。
 それでも私は彼らを心から素直に認めることができなかった。
 物乞いでもスリでも詐欺でもなんでもやってきた。
 そうしなければ生きられなかった。
 言い訳だ。
 それでも私は生きる道がそれしかなくて。
 だから安全も命も保障されてきた彼らが憎かった。
 所詮相容れることができないんだと思い込んだ。
 それがきっかけ。

「分からないわ、あなた達には」
「あぁ分からねぇよ、なんで裏切ったんだ!」

 ばかなひと。
 きっと説明したって分かるはずない。
 私のことを理解できるのはこの世で私だけ。
 いくら説明したって変わらない。
 きっと

「なんでなんだ!仲間だったじゃねぇか」
「仲間?えぇ、昔は。
 私があなた達を憎むまでは」
「なら!何でその前に相談してくれなかったんだよ」
「相談したって変わらないじゃ」
「変わるのな」

 あまりにも真剣な声で言うから思わず動けなくなって。
 その瞳は酷く苛立たしいことに私を捉えて離さなかった。
 どうして?

「お前がオレたちを憎いって思うなら、オレは殺されてやった」
「なに、それ」
「お前を殺すことになるくらいならオレは殺された方がマシだ。
 ……好きだったんだ」

 瞳に涙すら溜めて武は言った。
 なにそれ。
 時計の鐘が鳴り響いた。
 思えばこの屋敷の時計の鐘を聞くときが一番心安らぐ時だった。
 時計の鐘は休憩の合図。
 みんなが集合する時間。
 そんな時間に死ぬのはなぜか幸せに思えた。

「なんで……っ」

 武の苦しげな顔に私は笑った。
 ばかなひと。
 それが私の彼に抱く一貫したイメージ。

「さあ、処刑の時間よ」

 私を殺してちょうだい。
 大好きな貴方、憎くてしょうがなかった貴方。
 ねぇ武。
 私やっぱり間違ってたわ。
 相談したら確かに未来は変わったのかもしれないわね。
 少なくとも――





 穏やかな静けさの中、銃声が鳴り響いた。





もしかしたら笑っていたかもしれない時間




 結局私を殺したのは貴方じゃなかったのね武。
 貴方は銃なんて使えないもの。

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