白銀の艶姫


□第一話、花の香は舞い込む
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―――意思を貫くため、誇りを守るために。



ざわざわと静かに緊張を伝わせる角屋の一室。ここに集まっているものは薩摩・長州の藩士であり、倒幕を望む攘夷志士である。
その一角で呆れ返ったような溜め息が落ちる。


「よくもまあ同じことばっかり何度も何度も…」

「・・・・・・」

「・・・」


不知火の言葉に風間も天霧も無言で応じる。
騒ぎ立てる自分たちを醒めた目で眺める彼らに気づいたように藩士たちが囁き合う。


「あれが噂の鬼か…?」

「なるほど、人ならざる彼らが味方なら倒幕とて容易になるであろう!」

「しかし鬼とは気性が荒いものと聞いている。今機嫌を損ねられても困る」

「幸い、ここは角屋だ。逢状も出してある。すぐに来るだろう」

「今日に呼べるような芸妓など・・・」

「案ずるな。我らのよく知る者だ」


話題が芸妓に至ったとき、丁度襖の向こうからシャンシャンと鈴のような音が聞こえてきた。
その音に幾人かの藩士が歓声をあげた。


「彼女が来たのか!」

「これはいい。是非彼女に彼らの相手をしてもらおうではないか」


喜色を浮かべる藩士らを風間はうろんげに見やってから、月へと視線を移した。
いい加減この面白味のない会合に飽々してきていた風間は藩士たちの心配を裏切るように既に不機嫌だった。


「芸妓が参りました」

「ああ、入れてくれ」

「失礼いたします」


音もなく襖が開けられ、その先でお辞儀をしていた芸妓が顔をあげる。一瞬、あれほど騒いでいた広間が静まったような気がした。


「お久し振りでございます、藩士様方。沙羅鬼、只今参りました」


静寂の中で澄んだ水のような声が挨拶と共に自らの源氏名を名乗る。


「鬼・・・?」

「只の源氏名さ。今日は彼女に酌をしてもらってくれ。沙羅、彼らに酌を」

「わかりました。今日はどちらで?」

「彼らの言うように」

「わかりました」


襖から離れていた彼らはこちらに振り返った彼女を見た瞬間、珍しく驚きを露にした。


「こりゃあ・・・」

「これほどまでに…」


不知火と天霧の動揺が感じられた風間はゆっくりと月から視線を戻した。


「お初にお目にかかります、沙羅鬼どす。沙羅とお呼びくださいませ。よろしう、お頼申しますぇ」


目映い銀の着物。
風間の目が始めに捉えたのはそれだった。



 
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