短編

□キスまであと0.1ミリ
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「佐助、虫歯になっちゃった」

「…はあ?」

「だから、当分キス禁止ってことで」

「…はあああ!?」


佐助の叫ぶ声が部屋に響いた。







≫キスまであと0.1ミリ








不満顔の佐助が机を叩く。


「どうせ旦那とお菓子ばっかり食べてたんでしょ!?」


どきりとする。
まったくそのとうりだ。

だって、幸村が遊びに来る度おいしそうなお菓子を持ってくるのが悪い。

粒あんの大福や生クリームたっぷりの苺ショートケーキ。
甘いモノ好きの私が飛びつきそうなばかりチョイスしてくるから。



「自業自得、だね」

「……ごもっともです」


当分、甘いものは自粛する。
歯だってちゃんと磨く。
歯医者も…嫌だけど、行く。

そうすれば、結構早めに虫歯は治るだろう。

佐助にこんなに怒られるとは思ってなくて、溜息を吐いた。


ごそ、とスーパーの袋から買ってきたものを着ける。




「…ちょっと待って」

「ん?」

「……何でマスク着けるの?」


佐助の方を見る。
え、だって。


「…そうしなきゃ、佐助、キスしてくるでしょ?」

「いや、まあ、そうだけど。…暑くない?」

「…暑いよ?」


涼しいとは決して言えない季節。
けど、私が暑いのを我慢してマスクをするのは、理由がある。
偶然、この前テレビ番組で見た。



「キス、すると…虫歯うつるって言ってたから」


だから、マスク。
恋人に病気なんてうつせない。

はあ、と今度は佐助が溜息。
ぐっと顔を引っ張られた。


「…ちょ、佐助っ」

「別にうつされてもいいけどね」


そう至近距離で佐助が言う。
鼻と鼻とがくっつきそうな勢い。
焦って、突っ張ろうとした。


「私が、よくないんだって、ば…っ」

「…だったら、マスク越しでいいよ」


布越しに熱が伝わる。

いつもと変わらないキスの仕方。
マスク越しのキスは熱くて。


「…っ、ん…」


私が着けたくせに邪魔だと思ってしまった。




次、キスをするときは0.1ミリ――マスク分だけ縮まることだろう。




END

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