うそつき

□太陽がまぶしいです。
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―キーンコーンカーンコーン・・・


「はぁ・・・はぁ・・・っ!!」


平凡なチャイムが鳴った。
あたしはその音が消える寸前に、教室に飛び込む。


―バンッ!!


「っ!おっはよー!!」

「わぁっ?!馨かー、はよー。今日もギリギリだねー」

「よっし!なーんとか間に合ったー!セーフだよね?塚原委員長!」

「はぁ・・・お前いっつもギリギリに飛び込んでくるのやめろよな。危ねぇったらねーっつの」

「だってついついギリギリまで寝ちゃってさー」

「馨遅いー!」

「おはよー」

「はよー!」

「空ー校庭からここまで新記録だぜ?」

「お?何秒?」

「15秒ジャスト!」

「ここ三階だよな?しかも下駄箱から一番離れた教室だってのに」

「馨、足だけは速いよねー」

「だけはってなに?!だけはって!!もうっ!!」

「「「あはは!!」」」


席は一番奥の一番前。
入ったドアが後ろのドアだから、必然的にいろんな人に声を掛けられる。


言われたことにムッと頬を膨らませれば、周りの男子も女子もみんなが笑っていた。


「〜〜〜っ・・・もう、あはは!」


みんなが笑ってる。
だから、あたしもつられたように笑った。

そうすればさらにみんなは笑ってくれて。
周りが明るくなる。照らされたように。


「(・・・今日もいい天気)」


窓の外をチラリと見れば、太陽が輝いていた。


真夏の太陽。

いつもの日常。


あたしは今日も、ほっと一息ついた。


「あ、馨!」

「んあ?」


席に着くと、後ろの席のみーちゃんが声を掛けてくる。
間抜けな声を出して振り向くと、みーちゃんが面白そうに口を開いた。


「今日ね、転校生が来るんだってー」

「ほへー!」

「馨、ちょー間抜けー!」

「うっさいー!っで、みーちゃん。彼の情報は?」

「彼って、あたしまだ男か女か言ってないんだけど」

「男な気がする。匂うんです」

「お前は変態か!」

「うっさいってばー!今みーちゃんと話してんのー」

「こいつ生意気ー」


周りの茶々入れがうるさいけど、満更でもなく笑う。
笑いながら憎まれ口を言って、更に突かれたりしながらも、みーちゃんを促した。


「でで?みーちゃん!転校生はどんな子なりか?」

「なりって、なに人だよ。お前」

「んー、たしかね、ドイツとのハーフらしいよー」

「え?!あたしドイツとハーフだったの?!」

「いや、馨のことじゃないから。転校生が、ね」

「っていうか自分のことだろが」

「いや、実はあたしの記憶は改竄されてるのかと」

「んなわけあるか!」

「あはは!ですよね!」

「馨あほー」


みんなの笑い声が響く。それにすごく、安心する。

明るくて、眩しい。
教室の中に太陽がたくさんあるみたい。


(あつい)


―ガラッ


「はーい。席についてー」

「はーい!!」

「空さん、いつも元気ね」

「うん!元気です、ティーチャー!」

「馨うっさいー」

「黙れー」

「はーい」

「素直だなーおい」


先生が入ってきて、HRが始まった。

朝の話題に因んだお決まりの言葉を、先生が紡ぐ。


「今日は転校生がいるからねー。・・・入ってー」

「!」


――彼を見た瞬間。


本物の太陽が入ってきたのかと思った。


麦藁帽子色の髪色と、屈託ない笑顔と。



「橘千鶴です。よろしくお願いしまーす」



無邪気な声が、リンクして。



「(……綺麗……っ)」



そう、思ったの。

だけどそれとは裏腹に、あたしの表情は歪んだ。こわい、って思った。


「(…――たい)」


それは無意識だったけど、確かに思ったこと。



真夏の、太陽。


照りつける暑さ。


暖か過ぎて眩しすぎて、目眩がするの。



「仲良くなれるかな?」


後ろを振り向きながら、笑顔でそんなことを口にする。

みーちゃんが笑う。先生があたしに気付いて、こっち向きなさいって、言った。
みんながまたかよ、って笑って、あたしは元気よく返事をして、前を向いて、笑って、ああ…。


「(こわい)」


彼には近づきたくない。
そう、思った。



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