うそつき
□きみは鳥ですか?
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何度目かの転校の末に辿りついた穂稀高校。で、昔出会った子と再会した。
…っていうのに、彼はオレのこと知らないって。薄情だこと。
(ふは……薄情、なんて、今更)
自嘲は一瞬で収めた。チャイムがなる。これ聞くの、三回目。
1、2時間目の終わりは、転校生ってことで囲まれてたけど、3時間目の終わりになればそれも薄れた。オレの周りにはもうほとんど寄ってこない。
だから、チャイムと同時にいなくなったゆっきーを追いかけた。ら。
「ねーねー橘くんっ祐希くんと知り合いなの?」
「幼馴染とか?」
「およ?」
教室を出た途端、今度は違うクラスの女子に囲まれた。
理由は質問から察することができるから、複雑。仕方なしにへらりと笑う。
「いやーなんつーか、知り合いっつーか、マブダチ?みたいな?」
「仲良いのー?」
「祐希くんとどんなこと話すの?」
「それはやっぱ、ほら!男の子ならではの話でしょー!オレたち、思春期だしぃ?」
「えー?」
ノリを作れば、女の子たちも笑いながら返してくる。
悪い気はしない。いいネタを掴んだ気分。
…でも今はそれより、ゆっきーを追いかけたいんだけど。
ちょっといろいろあやふやだから。
なんて、オレの心情は知らず、女の子たちは更に詰め寄ってくる。
「祐希くんの誕生日はー?」
「好きな音楽とか知ってたら教えてー」
「一緒に話てもいい?」
「(…めんどくせー)」
正直、ため息が出そうだ。吐かないけど。
ヘラリとした表情はそのままに、頭をフル回転させてこの群れを切り抜ける方法を考える。
けど、それが終わる前に、少し大きな慌てた声が掛った。
「誰かー!誰か、へるぷ!!英和辞典持ってない?!」
「おわっ?!」
「!」
目の前の女子の一人が、衝撃によろめく。
その女子の腰に、一人の女の子がひっついていた。
その子はぎゅうっと縋る様にしながら、大きな声で続ける。
「次の英語当たるのに、忘れちゃったあー」
「またかよ馨ー」
「うちのクラスは今日英語なし!」
「私んとこもなしだから、たぶんないよ」
「うへえ…まじかあ」
馨と呼ばれたその子は、愛らしさの見えるオーバーアクションで落ち込んだ。
…内心、園児を見てるみたいだと思った。
それくらい、態度が幼く、だけど人を惹き付けていた。
彼女の落ち込み具合に、苦笑をしながらも女子はなんとかしようと唸り始める。
その中で、控えめに佇んでいた一人がそっと声を出した。
「あ、わたしのクラス次の次にあるから、急いで返してくれるようなら貸せるよ?」
「おお!貸してくださいませませ!!」
「何語だそれ」
「馨ちゃん語です!ドヤッ!」
「口でどやって言うなし」
「いいジャマイカ!!」
「はいはい。さっさと取りに行くよー」
「おおー!ありがとありがとー!!助かりまっす!!」
「……」
女子の去っていく背を見送る。
なんというか、呆気に取られた。
いつのまにかその場にいた全員が、彼女に夢中になっていて。
結局女子はその子のために、オレを解放して教室に戻って行った。
所謂、そういう子なんだな、と思った。
またかよ、と言われていたから、貸し借りの頻度は多いのだろう。
放っておけない子、ということだろうか。
おかげでゆっきーのところに行けるわけだけど。
「(…なーんか、)」
オレに、似てるかも、なんて。
ちょっとだけ思った。