ワンだふる・でいず
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雨の日の散歩が世の中で一般的でないのは当然のことだが、夏樹はそれが好きだった。傘に当たる雨の音がお気に入りで、集中力が高まるのだ。
散歩を始めて10分ですでにネタが浮かび脳内だけではあるがプロットまでできあがっている。
「(よし、帰って中森さん(担当)に連絡しよう)」
雑誌の連載であるもののとりあえず文庫本1冊分にはしようと考えてひとりうなずく。たった10分の散歩ですでにいいものができてしまった。とスキップでもしたくなる気持ちを抑えてぐるりと遠回りして自宅に帰ろうと決める。
長靴に水が撥ねるのも気にせず道を歩いていると、何か、ふと気になるものがあった。といえば何か特別な力があったようにも聞こえるが、単純に雨音とは違う音に集中が切れて気が逸れただけだったのだが。キュウっと鼻が鳴るような。
小動物の弱い声。
舗装された道から河川敷に生い茂る草むらに駆ける。声の主は案外すぐに見つかってそばに膝をつく。
「! 君」
草むらにいたのはびっしょりと濡れて泥まみれになった両腕で何とか抱えられるだろう大きさの子犬だった。大型犬の子犬というのはすぐに分かった。
声に反応したのか子犬は薄く眼を開けてから少しだけ牙を見せた。唸っているつもりらしいが声がよわよわしい。一応鼻先に拳を差し出すも、噛みつく元気もないらしい。
「、ごめんね」