ワンだふる・でいず
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「もう無理だよ…私にはもう、書く力が尽きたに決まってる…」
『あー…またかぁ』
月に一度訪れる、夏樹のネガティブ期である。靖友の鼻に感じるそれは、女特有のそれだろう。また彼女のそれは連載作品の締め切り数日前に来る予定になっている。全くめぐりが悪い。
デスクの上のパソコンの空のスペースに額を押しつける様子は不安になるほどに弱々しい。
『だいじょォぶぅ?』
高めの椅子に座る彼女の膝に顎を置く。そうすると夏樹は机から頭をずらし、膝にある靖友の頭に額をうずめた。グリグリと擬音が聞こえてきそうだ。いや、モフモフだろうか。
「靖友ぉ…どうしよぉ…」
『夏樹チャンなら書けるってぇ。弱気になりすぎィ』
「ぐううう…むりだわ。これもう今日は無理。ネタがあって書けないってのはほんとにテンションと指と文才と神様がぴたっと来ない日だ」
靖友は犬である。犬は人間の言葉を、人間が思うより理解しているが詳しく分かるわけではない。テンションと指と文才と神様がピタッと来る日など、犬の靖友にはさっぱり分からないし想像もできない。
とにかく今日はダメな日なのだろう。