ワンだふる・でいず

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夏樹の身体は常に熱を帯びているような雰囲気でどこか焦点の合わないような、浮いたような表情をしていた。そして靖友はもう何が何か分からず、首をかしげていた。見たままこれは飼い主が何を言っているか分からない時に犬がやる動作だ。

恋人ができたこともなく、なんなら恋らしい恋はしたことが無いと言っていた彼女が、一目惚れとはこれいかに。


「あのね。帰りは電車に乗って帰ろうと思って地下に降りようとしたらね、私足踏み外しちゃって、支えてくれて」


もう音が立ちそうなほど赤い夏樹の顔を舐めてみたいとは思ったが、彼女は自分の頬を隠すように両手を頬に置いていた。舐めれないし、なんとなく気に食わない。

しかし靖友は主人の話を黙って聞いていた。もともとしゃべれはしないのだけれど。


「細身だけど体幹とか筋肉はしっかりしててね、私を支えても全然ぶれなかった。ああ、思いだしただけでときめく」

『わかんねぇ』

「名刺渡してきた。普段持ってないんだけど、サイン会だから一応持っていったんだ」


ラッキーだったよ。と夏樹が嬉しそうに笑うが、靖友はやはりいい気はしなかった。これはつまり大好きなご主人に番いができるということだ。彼女にとってはもしかしたら幸福なことなのかもしれないのだが、最愛の存在だと言ってくれた彼女に別の最愛ができるのだ。


『夏樹チャン、そいつと結婚しちゃうのォ?』

「連絡くれたらいいね」

『俺はそうは思わねぇよ』


そう言えないのは仕方ないが少しだが鼻を鳴らして夏樹の足にすり寄ると彼女は嬉しそうに靖友を見ながら、やはり恋をした柔らかい目でほほ笑んだ。


NEXT 2015.12.6
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短いです、すみません。
 

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