ワンだふる・でいず
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「来てくれたか夏樹」
「、東堂。驚いたよ、今日は休みなんだ」
「ああ、すまんな呼びだして。新作を読ませてもらってな、いてもたってもいられなくなって」
東堂尽八と夏樹の出会いは彼女が色々なコンクールで荒稼ぎしていたとき、夏休みを利用して書きためをする為に出版社が予約した東堂庵、所謂缶詰の場で出会った。
1階の一室を借りて食事も何もかもを部屋で過ごす同い年の彼女を、東堂は多少気の毒に思っていた。夕食の膳を下げようとふすまをノックすると短く了承の返事があり襖を開ける。すると襖によって風の道ができる。強い風で音を立てて東堂を叩いた。
「(あ)」
思わず声をあげそうになったのは東堂だった。
部屋の中を見ると部屋には明かりがついておらず月明かりだけが白く部屋を写していた。部屋の客は浴衣姿で縁側にぺたりと座り込み、月のある空を見上げていた。彼女の周りにはメモ紙が散乱していて、それが舞う光景すらも、何もかもが別世界の絵画のようで。
「別の生き物のように美しかった」
「はは、実際は大切なネタのメモが飛んだもんで放心状態だっただけだけどね」
「次の日に池の上に落ちていてよかったな」
「やー、ネタメモ失くしたなんてなったら何の缶詰だって怒られるところだった」
そう言ってコーヒーを飲んだ夏樹を見ながら東堂は美しい顔を微笑ませた。その顔は、夏樹がいままで作品でつづったどのキャラクターよりも美しい。きっと自分の文才で無理だろうと夏樹はもうあきらめてしまっていた。
これほどの男、紙の上以外に存在できることが驚きだ。